わたしたち2人の心を鷲掴みにしただけのことはあって、藤井君のトークは流石だった。
こちらのわだかまりのことも忘れるくらい、面白かった。
サッカー部の主将だった伊藤くんが、今は頭に髪の毛がないとか、
副将の石田くんは、お嫁さんの尻にしかれているとか、
まとめてしまえば取るに足らない話なのに、どれもこれもお腹が痛くなるほど。
さっきもらった名刺には、有名外資系投資銀行のロゴと、ヘッドディレクターという肩書きが踊っていた。
係長みたいなものだよと言って笑っていたが、仕事の出来る人だというのは、手にとるように分かる。
お酒を進めるタイミングとか、料理が届いた時の振る舞いも完ぺきだ。
私たちが席を立って返ってきたら、もう会計は済まされていた。
雪乃と2人で、それは悪いからと何度言っても
いいのいいの、と言って取り合ってくれない。
店を出ようとした瞬間に、あっけらかんとした顔の裕太がやってきた。
「え、終わっちゃったんですか〜」
なんと間の悪い人なんだ、と3人して笑っていたら、
「立川」
酔っぱらって笑っていた藤井君が、急に私の名前を呼んだ。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。