ひざびさに、心臓がドキッとした。
心臓だって筋肉だから、筋肉痛になるんじゃないかってくらい。
でも、次の呼吸の瞬間には、心臓も脳も落ち着きを取り戻し「これは仕掛けだ」と、平常心を取り戻すことに成功した私は、ちょっとニヤけながらハートが大量についたスタンプを送ってみた。誘いに乗ったら、からかうのだろうから先手を打った。
イケメン単細胞で苦労したことのない誠士に、返しが難しいかなとニヤっとして前を向いた瞬間
「お前、本気にしたのか?」
その声の主は・・・。自分の脇の甘さに呆れる。
誠士は、同期総合職の星だ。一般職と総合職は出会うことがないけれど、同期が企画する飲み会などで親交を深めあうことがある。
誠士とは飲み会で知り合ったが、2年前同じ支店の勤務になって、ビル内ですれちがったり、誠士が後方業務の担当と話をしていたり、顔を合わせることが増えた。
あんな調子で、よく取引先でミスしないものだ。女心は読めなくても、取引先の心と数字は読めるのね。
高らかに笑い出した誠士に、また正常心を取り戻した私は、踵を返してロッカールームへ駆け込んだ。
「本気にするわけないでしょ!」
とだけ送って、スマホをロッカーに投げつけ、窓口に戻った。あとから、少し笑いがこみ上げる。
何があったわけではないが、なんとなく明日は、早く起きれそうな気がした。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。