「裕太と飲んでやってくれよ」
わたしが動揺を隠すように無表情を続けていると、裕太が私を覗き込んでくる。
「うん、いいよ、口座作ってくれたお礼もしなきゃだし」
また大人のフリをした。
心は落ち込んでいるが、明るく
「またね、ばいばーい」
去っていく2人に手を振る。
雪乃の顔は見えなかった。
いや、見なかった。
大人でいるために、そうした。
裕太は本当にいい子だ。ずっと気遣ってくれて、笑顔で明るくって。
「だからね、腹直筋をちゃんと使うためには、腕をしっかり締めてないとダメなんですよ。
それがなっかなかできないんですけどぉ、倫太郎さんは、最初っからできたんすよ」
倫太郎というワードにいちいち反応してしまう。
「あのひと、パーフェクトっす。年収もあれは、億いってますよ、だけどね、ヒック、倫太郎さん、ヒック」
「ちょっと飲み過ぎだって」
「女の人にだけは恵まれないんですよ、ヒック」
「え?」
「高校の時の彼女が忘れられない、ヒック、って、ヒック」
え、それって―——。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。