Vol.1 やっぱり朝は起きられない
「はっ」
毎朝、私の起き抜けの動きは決まっている。まるでプログラミングされているかのように、布団の中で一瞬びくっとすると、左側の体側を上にして、両手でベットを思い切り押し、時計がある後方へカラダを右にひねる。
きっと、特定の筋肉だけ発達しているに違いない。
おそるおそる見る時計の針は、7時30分を指す。
「やっばーい!」
・・・という独り言もプログラミング通りなので、実はそれほどびっくりはしていない。
しかし、時折、本当に「やばい」状況が訪れる。カラダを右にひねった瞬間、腰まわりのスジらしきところが「ピキッ」と反応し痛みを伴うのだ。
もう、28歳。諸先輩方の忠告は、お見事と言わざるを得ない。カラダもお肌も、曲がり角を実感している。
「あ、Tゾーンかさついてる」
まあ、いいや、帽子かぶって出勤だな。あとで化粧直そう。
これは、まぎれもなく今の私。銀行一般職6年目の独身女子の実態、である。
自転車を駐輪場へ置いて、腕時計を見る。これも、毎日のプログラミングだ。7時56分、間に合った。
「なに、ニヤけてんの?」
同期入行の総合職、誠士に、このにんまり顔を見られていた。
今日も、いつもと変わらぬ朝・・・。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた翌日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静 岡出身。東京の私立女子大学を出て、銀行の一般職。特に仕事での夢はないが、お客さんとの何気ない会話や、毎日シメで数字がきちんと合うことが何よりも ほっとする瞬間であり、テラー(窓口業務)が向いていると最近気付いてきたところ。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きして、花の宮やりをす るという朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。おなじ「乃」が名前の最後につ くことと、お互い白かったため、高校時代は「ゆきもえ」と言われ、多少ちやほやされていた。が、雪乃は性格がさばさばしており、テニス部だったため、すぐ に真っ黒になってしまった経緯を持つ。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。高校3年間萌乃が片思いしていた相手。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。今年結婚した。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌 乃とことみの同期であり、総合職。総合職と一般職なので、なかなか仕事を一緒にする機会はないが、同期が企画した飲み会で知り合った。2年ほど、支店にな り、顔を合わすようになったが、今は本店勤務。たまに萌乃がいる支店に顔を出し、萌乃にちょっかいを出してくるため、萌乃は辟易している。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。口座開設の担当をしたことがある。