(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。最終週(第8週)は「種をまく」。
第53話:食う寝るところに住むところ
(最終週(第8週):種をまく)
「東京に戻ってからも、夢野市で過ごした時間が忘れられなくて。いろいろと調べていたら、古民家も耕作放棄地もたくさん余っているみたいで。
ケイも乗り気になって、2人で移住することにしちゃった。畑はただで借りられるというし、家賃は東京の5分の1だし。
わたしには、こういう生活が性に合ってたのかもしれない。
だって、やりたかったことは、おいしい料理をつくる、ただそれだけだもの」
ハルコさんは穏やかに話した。
わたしは、その話を聞いただけで答えをもらった気がした。
「莉子ちゃん、食べるものを確保できるって自信になるわよ。
人間どんな風にも生きていける。自由に、やりたい仕事をやれる近道になるわ。
そうだ、きょう、プチトマトやイチゴがたくさんなっていると思うの。今から収穫してきてもらえないかな?熟する前に早めにとってしまいたくて」
お手製のグラノーラを食べてお腹が満たされたところで、ハルコさんに渡されたかごを持って畑に出た。
誰もいない静かな畑。
ここにいると自分と対話できるような気がする。それは瞑想に近いかもしれない。
赤い果実を探してもぎ取りかごへ入れていくだけの単純作業が、心をまっさらにしていく。
トマトをひとつ、口の中に放り込む。びっくりするほど甘くて、フルーツみたい。
体を動かすと無心になれるんだ。
子どものころに嗅いだ懐かしい土のにおい、湿った柔らかい土の感触。鳥のさえずり、農道の脇を流れるせせらぎの音。
ざわついていた心が穏やかに落ち着いていく。思索にはもってこいの時間だ。
部屋に戻ると、ハルコさんはだいぶ良くなったのか、起き上がってゆっくり歩いていた。
「突然お店を休んだお詫びもかねて、前から考えていた計画があるの。
梅雨入り前に、うちの畑で朝ごはんパーティーをしない?参加料はいつもの朝ごはんと同じ、500円」
とった野菜をその場で食べる。鮮度が何より重要な野菜たちは、その場で食べるのが一番おいしいという。
「ぜひやりたいです!」
楽しみで胸が高鳴る。
(明日の朝につづく)
今日のおすすめレシピ「もぎたてトマトで作りたい!アボカドトースト」
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「食べるものを自分で確保できると、やりたい仕事をやる近道になる」。ハルコさんの言葉、心に、そっと響きませんか?
食材は買うもの、と決めるのではなく、自分で育てることで、「食べるために働く、仕事をえらぶ」という当たり前から解き放たれて、自由になることができるのかも… 夢野でそのことを実現しているハルコさん、うらやましい気もします!
莉子のように、もぎたてのトマトが手に入ったら、作ってみたい、トマト&アボカドトーストをご紹介します♪
「トマト&アボカドトースト」(by:あやんさん)
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。