(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。
Vol.2 フリーライター
(第1週:おいしい朝ごはんをもとめて)
会社をやめて、憧れだったフリーライターに転身して2カ月。残念ながらまともな仕事にありつけていない。取材と称してぶらぶらと出歩くことも大切かな、なんて過ごしてきたけども。
フリーランスのわたしが、部屋着を脱いで、寝癖をなおして、すこしだけメイクもして元気に出掛けられるのは、朝ごはんという目的があるからこそ。
この仕事、きこえはいいのだけどアルバイトのようなもので、収入はなかなか安定しない。親が買ってくれた小さな中古マンションに住んで、なんとか食べていけるという生活だ。
洗いっぱなしのシャツにジーンズという気楽な格好がゆるされるフリーランスは、お金がかからなくて助かる。
知り合いの編集者に頼まれて、フリーペーパーやタウン情報誌に短い文章を書いている。エッセイのような仕事もあれば、ニュースの解説とか、インタビュー記事なんかも引き受ける。といっても、まだ数えるほどしか仕事はもらえていない。
会社員ではないので、生活はどうしても不規則になりがち。ライターや編集者の仲間には昼夜が完全に逆転して、朝ごはんは食べないという人もいる。
「莉子ちゃん、今日はいつにもまして顔色がいいじゃない」
先月30歳の誕生日を迎えたわたしより、4つ年上のハルコさんは、手を動かしながらも、お客さんに気配りを忘れない。
「早起きがすっかり気持ちよくなって。カフェあしたの朝ごはんのおかげです」
「ありがとう。カフェあしたを代表してお礼を言うわ。店員はわたしひとりきりだけどね」
ハルコさんはお皿を洗う手を止めずに、肩をすくめて笑う。
「この店にくると、途端に元気になるんです。そういえば、さっき道端にチューリップが勢いよく咲いてましたよ。春ですね」
「そうね、いつのまにか冬も明けたわね。もうすぐ開店一周年だもの、早いなあ。あ、おはようございます」
顔なじみのお客さんが入ってきて、おしゃべりは自然ととまる。
白いタイル張りの厨房は、磨き上げられて朝の光に照り輝いている。木製のラックには、スパイスや調味料が入った瓶が律儀に並んでいる。ガス台には、赤茶けた土鍋と、寸胴のホーロー鍋、白いやかんがのっている。こざっぱりして清潔感のある調理台には、使い込まれた調理器具が定位置におさまっている。
道具のひとつひとつがぬくもりをかもし出していて、いつまでも居たくなる。
(明日の朝につづく)
今日のおすすめレシピ「わさび菜できらめく春サラダ」
(ストーリーに関連するおすすめレシピや記事をご紹介します♪)
春を感じるとよりおいしくなるのが、フレッシュな旬野菜を使った朝のサラダですよね。ぴりっと心地よいからさの「サラダわさび菜」でつくる朝サラダで、春を感じてみては?ヘルシーで、火を使わず作れるのもうれしいですね♪
「サラダわさび菜できらめく春のサラダ☆」(by:アンさん)
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。