[あしたの朝ごはん]第1話:1日が始まる

 

今日から新しく朝の連載小説がスタートします。朝ごはんをテーマにした美味しい物語のはじまりです。

(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。

第1話 1日が始まる

(第1週:おいしい朝ごはんをもとめて)

スニーカーの足元が軽やかに自転車をこいで、いつもの場所を目指す。

穏やかな海と、小高い山が連なる夢野市。東京から遠く離れた小さなこの町に、朝ごはんだけを出す小さなお店がある。

「カフェ あした」。

川沿いに静かにたたずみ、住宅街にすっかり溶け込んでいる。窓枠にちょこんと置かれた看板を見落とすと、通り過ぎてしまいそうだ。

やわらかく透明な朝の光が、白い漆喰の壁と空色のペンキを塗った木の扉を照らす。店の前では大人の背丈ほどあるオリーブの木が宙に向かって手を広げている。扉の取っ手には「OPEN」の表札。今日も早起きして良かった。

わたし、波多野莉子の一日はここから始まる。

この店を知ってまだ1ヶ月しかたたないけれど、来るたびに、巣箱に帰る鳥の気持ちになる。

木枠でふちどられた小窓をのぞきこんで、風で広がったショートボブの髪を手で整える。先週切ったばかりの短い髪の自分も、だいぶ見慣れてきた。扉をあけると、時間の流れがゆるやかになる。

店主のハルコさんが、いつもの包み込むような声で迎えてくれる。

「おはようございます」

パンが焼ける香ばしいにおいが漂ってきて、わたしの幸せスイッチを押す。湿ったぬくもりのある空気がかじかんだ手を温めてくれる。

「いらっしゃいませ」ではなく、「おはようございます」とお客さんを迎える。ひとりで店を切り盛りするハルコさんの流儀だ。

カウンター越しの調理場の奥にかかっている黒板を見上げるのは、なにより楽しみな瞬間だ。今日のメニューはなんだろう。

〈米粉パンのトースト、はちみつと苺ジャム、グリーンサラダ、ゆで卵〉

ああ、すてき。いつもながら、うっとりしてしまう。「カフェ あした」は朝ごはんの王道が食べられるから、好きなんだ。

フリーライターをしているわたしは、「地道なものが最高」だと信じている。

ハルコさんの朝ごはんは、ごく普通のメニューばかりで、ため息が出るほどおいしい。朝起きて、お気に入りの空間でおいしい朝ごはんを食べること。わたしにとっては、毎日を特別にする起爆剤なのだ。

大学を卒業してから勤めていた会社をやめて独立してから2カ月がたつ。ライターとして、筆一本で食べていくという夢の実現は、はるか遠い。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「フレンチトースト」

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フレンチトーストの朝ごはん

定番のトーストとゆで卵の朝ごはんもおいしいけれど、甘~い&極上なフレンチトーストはいかがですか?ベーコンや野菜を付け合わせれば、ボリュームたっぷりで甘じょっぱい♪

フレンチトーストの朝ごはん」(by:Mituru Kitaokaさん

レシピはこちら♪ >>

(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

 

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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