[あしたの朝ごはん]第6話:ぷくぷく、自然に育つ

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。

第6話:ぷくぷく、自然に育つ

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(第1週:おいしい朝ごはんをもとめて)

「自然に発生したものってことですよね。なんだか体にもよさそう」

木べらでジャムをすくい、食パンにつける。

「材料を水に入れて何日かおくと、自然にぷくぷくと泡が出てくるの。酵母がないと、パンも、ビールだって作れないんだもの。じゅわーっと元気な泡があふれ出すまで成長して。待ってるときも楽しいんだな、これが」

「うわあ、未知の世界。天然酵母、いい仕事するなあ」

しみじみとパンを見つめながら、口に運ぶ。

なにかを完成させるときに、絶対に必要なもの。必要とされる人。天然酵母はおいしいパンにとって、なくてはならないパートナーみたいなものだ。

目立たないけど、地味にしっかり働く。わたしも酵母みたいに、いい仕事、できる日がくるかなあ。

わたしは夢野市の隣の市にある小さな編集プロダクションの社員だった。

小さいころから文章を書くのが好きで、小学生のころ、夏休みに出された日記の宿題を、新学期になってからも地道に書き続けているような子だった。

公園で友達と新聞を作ってよく遊んだ。できた紙を近所のポストに勝手に投函して回った。

思い返すとはた迷惑な子どものいたずらだけれど、そのころのわたしには真剣な仕事で、大真面目だった。

高校生のとき、新聞部員になって、先生のプライベートを取材して記事にした。おもしろがった校長先生が、校長室の前に毎号掲示するようになって、来客が立ち止まって読みふけり、笑っていたのもなつかしい。

わたしがうまれたとき、「夢野市」なんていう住所はまだなかった。夢野町と隣の村が合併して、高校生のころに市が生まれた。いわゆる平成の市町村合併ブームにのっかったのだ。

夢野市を好きでも嫌いでもなかった。だけど、いつも閉塞感があった。未来という天井が、目に見えない壁で覆われているような気がした。

東京にあるものが夢野市にはない、東京にいけばできるかもしれない可能性がつぶされている。そんな感覚だ。

新幹線と特急を乗り継いで3時間ほどかかる東京の大学で文学部に入った。就職活動で大手の出版社を受けたが、ことごとく落ちた。

実家のある夢野市に戻ってきて、父親の紹介でプロダクションに入ることができた。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「天然酵母でつくるクルミクッペ」

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4月から6月ころは、酵母が発酵しやすく、パンづくりに最適な季節。少し時間と手間はかかるけれど、天然酵母で手作りパン、トライしてみませんか?

あこ・ホシノ天然酵母 黒糖風味の胡桃クッペ」(by:いたるんるんさん)

レシピはこちら♪ >>

(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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