(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。最終週(第8週)は「種をまく」。
第55話:青空の下で、おいしい朝ごはんを
(最終週(第8週):種をまく)
「空の下で食べるご飯ってサイコーやなあ」
おじいさんに店番を任せて出てきたらしい、おまご豆腐の角田一徹くんがサラダを取る。
「うちのおからで作ったポテトサラダ。食べてみて」
しっとりしていて美味しい。
留学生とみられる集団の真ん中には、前髪一直線のヨンヒちゃんがコチュジャンのチューブを手にしてご飯を食べていた。
子どもの甲高い笑い声が聞こえて振り向くと、みどり総合商社の牧田加奈さんが、ロングスカートに白い帽子というカジュアルな格好で現れた。
手には〈夢野市ごちそう通信〉と題字が書かれた企画書を持っている。
「莉子さん、こないだは勝手な提案をしてごめんなさい」
「いえ、こちらこそ、せっかくのお仕事にこたえられなくてすみませんでした」
仕事を断った気まずさからうつむきがちになる。
「でね、これ、やってみない?夢野市の特産品の通信販売」
牧田さんは全然気にしてないみたいで、勢いよく企画書を渡してきた。
中身をめくってみると、雑学や生産者のストーリーをつけて野菜や缶詰、調味料を全国に発送するというアイデアみたい。
「あなたに取材してもらって、ウンチクを集めて、商品に箔をつけるの。
消費者は飛びつくわ。価格も割高でも受け入れられるはず。ブランディングこそ商売の命よ!」
相変わらず鼻息が荒い。牧田さんには圧倒されっぱなしだけど、うん、そのアイデアは面白いかもしれない。
「ママー、こぼしたあ」
マヨネーズを口の周りと胸元にべっとりとつけた男の子が、牧田さんに擦り寄ってきた。
「んもう、なにやってんのよ」と叫びながら、鞄のある方へと駆け出していく。
得意げに近付いてきたのは由美だ。「わたし、3人目を妊娠したの」
「えー、すごいー、おめでとう!」
この人にはいつも驚かされる。
「でも、助産師の受験勉強は続けるわよ」
相変わらずたくましいなあ。そばには、歌って踊る遥ちゃんと仲間たち。
エプロンをつけたままで店を飛び出してきた笹野商店の明くんは、遥ちゃんたちの踊りにアドバイスをするのに忙しい。
ケイさんは写真を撮っている。
「これ、定期イベントにしない?」とハルコさんに語りかけている。
うん、同感。こんなに楽しいイベントなら毎週でもいいくらい。
「わたし、ブログもぜひ書かせてください!」
「もちろん、お願いするつもりだった」とケイさんがうれしそうに笑う。
タクシーが畑の前に停まった。
新たな参加者が到着したのかと目をこらすと、アロハシャツにサングラスの男の人が現れた。
「愛するハルちゃん、ただいま!ようやく、修行より戻りました」
「きゃあーダーリン、おかえりィ」
いつもの凛々しさがどこかへ吹き飛んでしまった。
まさかこの人、ハルコさんの夫?
2人は抱き合って頬を摺り寄せている。
わたしが知る、クールなハルコさんはどこへ行ってしまったの。
余裕を見せて笑っているのはケイさんぐらいで、誰もが眼をぱちくりさせている。
(明日の朝につづく)
今日のおすすめ記事「一徹くんの気分でつくりたい♪おからのポテトサラダ」
(ストーリーに関連するおすすめレシピや記事をご紹介します♪)
ハルコさんの「きゃあーダーリン」発言にはびっくり…!
でも、先日、莉子がゴーストライターのオファーを断ったことはさらっと忘れて、新しい企画を考えているいさぎよくかっこいいママ、牧田さんや、3人目を妊娠しながら、さらにアグレッシブに生きようとしている同級生の由美。
無事に日本に帰ってきてくれた、留学生のヨンヒちゃん。笹野商店の仕事を頑張っている明くん、アイドルになる夢に向かって踊る遥、夢野のPRをいつも考えているケイ。
みんながとってもいい人で、元気そうで、たのしそう。莉子も、自分のやりたい仕事に近づけている感じで。なんだかとっても、しあわせな気分になれますね!
おまご豆腐でがんばる一徹くんをおもいながら作りたい、ヘルシーなおからいりポテサラ。今週末の朝ごはんにいかがですか?
「おからのポテトサラダ」(by:マルシェさん)
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。