(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第4週は「あなたの夢はなに?」。
第28話:背中を押してくれる言葉
(第4週:あなたの夢はなに?)
「もう一度、学生に戻ろうかなと思って。看護学校に行って、助産師の資格をとって。あと4年以上かかるけれど」
「そのころにはわたし、中学生じゃん。ママもわたしも学校に通うって、なんか変な感じ」
遥ちゃんがうれしそうに言う。
「Today is the first day of the rest of my lifeって言葉、知ってる?」
わたしは不意に思いついて言った。会社を辞めようか悩んでいたとき、ある雑誌で見かけた言葉だ。英語が不得意なのに、なぜかこの言葉だけは心にストンと引っかかった。
「今日は残りの人生の最初の日?」
由美が言う。
「そう。何かを始めるのに、遅すぎるなんてないよね」
自分に言い聞かせるようにわたしが言い、3人で顔を見合わせて笑った。信号が青に変わり、歩き始めた。
そうだ、今日の本題を忘れていた。
「コラムのネタを探してるの。遥ちゃん、夢野のアイドルグループを取材させてもらえない?」
「もちろんです。わたしたち、真剣なんです。その記事でテレビ局も取材に来てくれないかなあ」
遥ちゃんがガッツポーズをした。ダイエットに夢中になったり、将来を夢見たり。小学生の生態を知れば、夢野市の新しい側面が見えてくるかもしれない。
夢野市にはいろんな人がいる。毎日なんとなく会社員をしていた時代には見えなかった景色や、知り合えなかった人たちと出会って、世界がどんどん広がっている。
「豆腐屋さん、この角を曲がったところだと思うよ」
由美が住宅街のほうを指差した。
「ママ、わたしやっぱり学校行ってくる。もう元気になったもん。メンバーにも取材のこと話さなきゃならないし。莉子さん、いつでも練習見に来てください」
遥ちゃんは、ランドセルをかたかたと鳴らしながら、反対方向へ走って行った。小刻みに動かす足元がとてもかわいらしくて、やっぱり子どもなんだなとしみじみ思った。
「行ってらっしゃい!」
後姿に声を張り上げる。こんなふうに大きい声をお腹から出すのって久しぶり。子どもが相手だと、声が自然と大きくなる。
「今夜はおからハンバーグにするから、おなか空かせて帰ってらっしゃい」
由美も大声で言った。
「ハーイ」
にっこりと笑って振り返った遥ちゃんの顔は、由美にそっくりだった。
(明日の朝より第5週がはじまります。どうぞお楽しみに!)
今日のおすすめレシピ「おからのスコッチエッグ」
(ストーリーに関連するおすすめレシピや記事をご紹介します♪)
遥が元気になってかけていく後ろ姿。想像しただけで、なんだかうれしく、応援したくなりますね!
おからハンバーグのアレンジ、うずら卵を包んだこんな「おからスコッチエッグ」なら、ヘルシーで見た目もかわいく、ダイエット中でもたっぷり食べてくれるかも♪夢をかなえる遥を想像しながら作ってみませんか。
「うずらとおからのスコッチエッグ」(by:satohahaさん)
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。