[あしたの朝ごはん]第24話:おからのパンケーキ

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第4週は「あなたの夢はなに?」。

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第24話:おからのパンケーキ

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(第4週:あなたの夢はなに?)

表面に薄く焦げ色がついている丸くぽってりしたパンケーキは、ほかほかの湯気がたっている。

ナイフで切り分けて口へ入れていく。そのうち切ることが面倒になったのか、フォークでパンケーキを突き刺し、大きな口をあけてむしゃむしゃと食べた。

「いい食べっぷり。おかわり、つくろうか?」

ハルコさんがうれしそうにのぞきこむと、遥ちゃんは口をもごもごと動かしながら、カクカクと音がしそうなほど頭を上下に揺すった。

「小麦粉やお砂糖はほんの少しにして、生のおからをたっぷり入れたわ。おからってすごいのよ。カロリーが低いのに満腹感もあるし、食物繊維もたっぷりでお通じにもいいし」

ハルコさんはわたしたちに背中を向け、ガスコンロの前に立ってもう1枚、焼き始めた。

やわらかいのにもっちりしている。大豆のほのかな甘みが口に広がる。おからの風味が自然になじんで、普通のパンケーキよりも噛むほどに味が深まる。

「おからって卯の花のお惣菜しか思い浮かばなかったけど、いろんなものに混ぜ込んだらかさも増えるし、おいしいし、何よりダイエットになるかも」

由美が満足そうに言うと、遥ちゃんの表情がふと和らいだ。

「良質の大豆を使った新鮮なおからだと、とってもおいしいんです。うちの店は『おまご豆腐』さんから仕入れてるんですよ」

初めて聞く店の名前だ。

「ここから夢野駅と反対方向に歩いて10分くらいのところにあるんです。とはいっても、最近、お店の名前が変わったばかりだからご存じないかも」

しばらく考えていた由美が言った。

「もしかして、大通りからすこし曲がった角にある、青い屋根の豆腐屋さんですか?」

「そうです、そうです」

「小さいころからお店の存在は知っていたけれど、わざわざ豆腐屋さんで買ったことはなくって」

由美がいうと、ハルコさんはうなずきながら言った。

「街の豆腐屋さんって昭和の時代のイメージでしょう。先代はもう80代なかばなんですけど、つい半年ほど前からお孫さんがついでいるんです」

「もしかしてそれで、『おまご豆腐』って名前なんですか?」

思わず身を乗り出して聞いてしまった。

「そうそう」

ハルコさんは笑いながら、遥ちゃんのお皿を受け取り、パンケーキを2枚のせた。遥ちゃんは「ありがとうございます」と言うと、とろりとシロップをたらした。

今度はナイフで一口サイズに切り分けながら、味を確かめるようにゆっくりと食べている。

「このお茶も飲んでみて」

(明日の朝につづく)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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