[あしたの朝ごはん]第26話:痩せ願望の理由は

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第4週は「あなたの夢はなに?」。

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第26話:痩せ願望の理由は

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(第4週:あなたの夢はなに?)

3人で豆腐屋へ向かう。太陽は高く、昼が近付いている。

学校を早退したランドセル姿の遥ちゃんと、専業主婦の由美と、たいした仕事のないフリーライターのわたし。平日の昼間、ゆるやかに時間だけが流れていく。

夢野市の中心を流れる小さな川沿いで、風を感じながら歩く。自転車に乗ったおじいさんが横を通り過ぎ、遠くには杖をついているおばあさんがゆっくりと横断歩道を渡っている。

ときおり車が通り過ぎるほかは、鳥の小さなさえずりや川のせせらぎがやさしく音を奏でるだけだ。

川沿いの植木や遠くの野山は、春を通り過ぎて初夏が待ちきれないように青々と茂っている。息を吸い込み、吐き出しながら、手足を振って歩く。

すがすがしい今の季節が一年で一番好きだ。

遥ちゃんが一歩前を歩き、わたしと由美がその後ろを並んで歩いた。

「遥ちゃん、どうしてダイエットしているの?」

ずっと疑問に思っていたのだ。わたしが小学生のころに痩せ願望なんてあったかな。

遥ちゃんは、顔色をうかがうように由美の方を見た。やっぱり遥ちゃんはまだ10歳の女の子だなと思うのはこんなときだ。

「アイドルになりたいの」

「AKBとかモーニング娘とか?」

「わたしはね、歌って踊ってドラマにも出て、お笑いもモデルもやりたい。いろんなことができるアイドルになりたい。ほら、あそこの公園でみんなでアイドルになる練習をしてるんです」

遥ちゃんは、「児童公園」と呼ばれる場所を指差した。

さびたブランコと、ペンキのはげかけた滑り台があるだけのなんの特徴もない公園だ。グラウンドらしきスペースがあるので、公園というより空き地と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。

「遥ちゃんだけじゃないんだ。仲間もいるのね」

「はい、5人います。みんなでデビューしたいねって話してるんです」

小さいころ、ここで友達と集まって新聞を作って遊んでいたことを思い出した。

「夢、かなうといいね」

わたしは言った。

アイドルがしのぎを削る東京から何百キロも離れた夢野市のこんなちっぽけな公園で、少女たちが夢を紡いでいる。

(明日の朝につづく)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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