[あしたの朝ごはん]第33話:貧乏旅行のなれの果て

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第5週は「思い出す恋」。

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第33話:貧乏旅行のなれの果て

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(第5週:思い出す恋)

「ぼく、世界中を旅して回るバックパッカーしててん。大学に入って1年生の夏、往復の航空券だけ買ってタイに行ってから貧乏旅行にはまってしもて。

バイトして金貯めて、放浪に出てまたバイトして、って繰り返してるうちに、なんや学費払うのんあほらしくなって大学はやめてしもた」

「どうしてそんなに気に入ったの?」

わたしまでついくだけた口調になる。

「思いっきり自由やねん。なに見てもなに食べても、どこで寝ても、何もかも行き当たりばったり。

ぼくを知ってる人が誰もおらん場所で、好きなようにできる。気楽なんやけど、ごっつ刺激もあって、ひりひりするからやめられへん」

肩に力が入っていないラフな一徹くんの背景が少しだけ分かった気がした。根っから自由を愛する男なのだ。

「死ぬまで旅人をやって生きていこうと思ってた」

「でも、どうして豆腐屋に?」

「じいちゃんが腰を痛めたって言うから、おかんにどうせ暇してるんやから様子見てきてって頼まれて10年ぶりぐらいに夢野市にふらりと寄ってん。

ぼくとしては旅の延長や。バックパック一つで、高速バスを乗り継いで」

おじいさんの見舞いがてら、いつもの旅のように、あてもなく街中をブラブラとあるいたらしい。住宅街を抜けて国道沿いを歩き、わき道にそれたころ、小さな集落が現れた。

「まさに秘境。海外で初めて行ったタイの農村を思い出して懐かしくって」

一徹くんは遠い目をする。

「なんつうかなー、一周まわって振り出しに戻った感じやった。旅はもうええかな、って素直に思えた。

おまけに、じいちゃんの豆腐がごっつうまかった。正直、そのときまで、豆腐なんて味も噛みごたえもない、腑抜けみたいな食べ物やとバカにしてたからね」

からからと笑う。「で、そのまま、じいちゃんの家に居ついた、ってわけ」

「ようこそ夢野へ、だね」

話にひき込まれて、食べる手が止まっていた。なんだか、すごく楽しい。

「みんなもっと自由に生きたらええと思う。旅するように行き当たりばったりで。

ぼくはじいさんが腰を痛めたというチャンスに乗っかっただけ。夢野の水と大豆にほれ込んで、豆腐を作ってみたいって思っただけなんや」

スープ皿の底にたまっていた野菜のかたまりをスプーンですくって食べながら言う。

「それを、国のえらい人は、介護だの、就職だの、住宅問題だのとこじつけて聞いてきはったから。孫ターンのモデル事例やとか言うて。

けど、なんかちゃうなと思って」

その感覚はよく分かる。

わたしも会社を辞めたとき、親や年上の人たちは型にはめたような言い方で忠告してきた。お金、再就職、世間体……。ため息が出る。

わたしが生まれたころ、日本は好景気に浮き足立っている時代だった(らしい)。物心ついたころには、バブルが崩壊して、不況というくらい雰囲気が染み付いた時代を生きてきた。

サラリーマン家庭の我が家も、お父さんのボーナスが雀の涙ほどしか出なかった年もあったみたい。

安定した会社で、安定した暮らしを。わたしも同級生も、大企業への就職を目指していた。

で、わたしは破れたんだけど。

「ハルコさんが言うてはった『おとも』ってこれですね」

一徹くんは目を輝かせる。

「そう。どれも夢野メイドのものばかりよ。パンとヨーグルトに合うんだから、豆腐にも絶対合うはずよ」

(明日の朝につづく)

今日のおすすめ記事「ヨーグルトの「おとも」チョイ足しアレンジ9選」

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旅するように行き当たりばったり生きている、魅力あふれる一徹くん。莉子が話に引き込まれてしまうの、女子の皆さんはなんとなく…わかりますよね?

おっと、忘れちゃいけない、第31話に登場したハルコさんの「おとも」。確か、はちみつ、いちごジャム、えごま油に塩、こしあん…えっ?豆腐にも合う?その理由は明日一徹くんにきくとして、ヨーグルトに合う「チョイ足し」おとも7選をご紹介します♪

朝のヨーグルトにチョイ足し!簡単アレンジ9選はこちら♪ >>

(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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