[あしたの朝ごはん]第29話:定休日に会える人

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。今日からはじまる第5週は「思い出す恋」。

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第29話:定休日に会える人

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(第5週:思い出す恋)

月曜日のカフェあしたは他の日より活気に満ちているから好きだ。

休日の余韻を断ち切って、頭を仕事モードに向けようとする人たちの心意気があふれているからかもしれない。

会社員時代はあれほど待ち遠しかった大型連休が、音も立てずに近づいてくる。

フリーランスになってから曜日の感覚がなくなった。祝日も平日も関係ない。カフェあしたの定休日が日曜で、燃えるごみを出すのが火・金曜。身の回りの決まりごとが、かろうじて曜日を思い出させてくれる。

だけど今日のわたしは、月曜日というだけで身構えてしまう。

ジーパンにのコットンブラウス。いつものカジュアルな服装を選んだのは、変に心が浮つかないようにするため。スニーカーで、自転車のペダルをこぐ。

平気、平気。なんてことないんだから。自分に言い聞かせて、カフェあしたの空色の扉をあける。

「おはようございます」

凛としたハルコさんの姿を見ると、心がしゃきっとする。パンの焼ける甘く香ばしいにおい。ここに来るといつもほっとするのに、今日は肩に力が入る。

「おまご豆腐店」を知ったのは2週間ほど前。

高校時代の友人、片平由美と訪れて、内装にまず驚いた。本当に豆腐屋かと目を疑うほど、異国情緒が漂っていた。

カラフルな布や暖簾が店の中に飾られている。アジア雑貨店みたいなおしゃれな雰囲気の中に店主の角田一徹くんがいた。

「さわるとやけどしそうに熱い男」とハルコさんに言われていた彼だとひと目で分かった。

浅黄色のターバンを頭に巻いて、着古した半そでシャツから日焼けしたたくましい腕が出ていた。シャープな輪郭のあご先には、短くのばしたひげ。

「いらっしゃい」と笑うと、真っ白い歯がのぞいた。人懐っこい笑顔は29歳よりもずっと若く見えた。よく喋り、くるくると動き回って働く好青年だった。

ハルコさんが食材を仕入れに行くことはあっても、彼がカフェあしたにお客さんとして来ることはなかったみたい。

「いつか朝ごはんを食べに行きたい」と話していた一徹くんの定休日が、今日、月曜日なのだ。

「週末に仕入れのことで一徹くんに連絡したら、今日来るかもって言ってたわよ」

ハルコさんがコーヒーを淹れながら話す。一気に胸が苦しくなる。

「莉子ちゃんがいつも何時ごろお店に来るか聞いてたわ。会いたいのかな」

ちょっとどういうことですか、と喉元まででかかって口をつぐむ。動悸が激しくなって息切れしそう。

「もしかして、一徹くん、苦手なタイプ?」

トーンを落としてハルコさんが尋ねてくる。あなどれない。勘が鋭くてなんでもお見通しなのだ。

なぜ緊張するかって。それは、遠い昔に鍵をかけたはずの心の古傷が痛むから。

「彼を見ていると思い出す人がいるんです」

 

一徹くんはわたしが24歳で失恋した相手と同じ、関西弁を話す男性なのだ。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「熱い×豆腐といえば…ピリ辛麻婆豆腐丼!」

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恋がテーマの今週!展開がとっても楽しみですよね♪

どきどきの相手「一徹くん」は、とってもアツーいお豆腐屋さんとのこと。ホット×豆腐といえば…やっぱりピリ辛の麻婆豆腐でしょうか!?じぶんに喝!をいれたい朝は、こんな、一徹くんのような麻婆豆腐丼はいかが?

☆美味しいキムチで麻婆豆腐丼☆」(by:モーちゃん

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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