[あしたの朝ごはん]第34話:いろんな味、いろんな美味しさ

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第5週は「思い出す恋」。

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第34話:いろんな味、いろんな美味しさ

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(第5週:思い出す恋)

手元のお皿に4種類の味を取り、パンを小さくちぎってつけてみる。

濃厚なハチミツに、果肉がごろごろ入ってぷちぷちと種までおいしい苺ジャム。

定番だからこそ、格別なおいしさが分かる。えごま油をひたしたパンに、岩塩を少しのせて食べてみる。香ばしいなあ。

小豆も甘すぎずさっぱりしていておいしい。うーん、パンのおかわりがほしくなる。

一徹くんは真剣な表情で食べている。

「うん、どれも素晴らしくうまい。絶対合うと思います。豆腐って主張しないから、何をつけても合うんです」

うれしそうに笑う。まぶしい。

好きなことを見つけて、突き進む人の顔。いいなあ。ここで笑っている人は林太郎の残影じゃない。一徹という人なんだ。

ハルコさんは、厨房の奥から瓶や缶詰を抱えて出てきた。梅シロップ、ポン酢、バジルソース、黒みつ――。甘いものから酒のつまみになりそうなものまである。

「見て見て、こんなにいっぱいあるの、夢野で作った調味料。どれもすごくおいしいの」

ぱっとしない、手作り感あふれるラベルが貼り付けられている。素朴すぎて、スーパーの店頭にすら届かない代物。

でも、夢野市の誰かにしか作れない、先人の知恵と工夫が詰まった食べ物だと思うと、輝いて見える。

「ぼく、豆腐をつかっていろんなことしてみたいんです。豆腐作りの教室を開いてみたいし、外国人向けにヘルシーな豆腐の食べ方を発信したい。

世界中まわって、いろんなもの食い尽くしたぼくが言うんやから、夢野の食べ物は絶対うまい。

やろうと思ったらなんでも仕事になる。意志あるところに道。夢野は可能性の宝庫やで、莉子さん」

そのとき、わたしというコップのなかの氷がカランと音を立てて溶ける音が聞こえた。過去の痛手に引きずられるのはもうやめよう。

「ごちそうさまでした」

2人で席を立つ。

ハルコさんがずしりと重そうな瓶や缶詰を紙袋に入れて一徹くんに渡した。

「また感想聞かせてね。莉子ちゃん、記事楽しみにしてる」

ハルコさんがウインクして送り出してくれる。2人で店の外へ出た。

「取材の日にち、打ち合わせしたいので良かったら一度連絡ください」

作って間もない名刺を取り出して渡した。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめ記事「トースト、お豆腐に!”かけるだけ”のアイデアレシピ」

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あんこやジャム、はちみつなど、トーストにあいそうなものが、お豆腐にも合う?確かに、一徹くんやハルコさんが考えるとおり、お豆腐は「大豆」が原料のシンプルな味わい。豆腐チーズケーキや豆腐スコーンなど、お豆腐はスイーツにもよくつかわれますし…合うかもしれませんね!

気になる方は、ちょっと試してみてください♪今回は、トーストやお豆腐、ご飯に「かけるだけ」でおいしくなる、カンタンアレンジをご紹介します♪

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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