[あしたの朝ごはん]第21話:乙女心とダイエット

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第3週は「女友達と待ち合わせ」。

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第21話:乙女心とダイエット

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(第3週:女友達と待ち合わせ・最終話)

収入はないが、時間はたっぷりある。フリーランスの特権だ。これも期間限定の幸せと思って楽しもう。

由美をぼんやりと待ちながら、紅茶のカップにゆっくりと口をつけた。

時計はもうすぐ午前10時をさすところだった。会計を済ませ、お客さんを見送ったハルコさんがテーブルを片付けながら、話しかけてきた。

「お友達、急用でもできたの?」

「小学4年の娘さんがいるんです。ダイエットに夢中らしくて今朝も朝ごはんを抜いて登校したら、学校で倒れちゃったって。それでいま迎えに行って戻ってくるそうで」

お盆を持ったハルコさんが、ため息をついて言った。

「こういうとオバサンみたいだけど、いま食べなくていつ食べるの、ってくらい大切な時期なのにね。子どもの食事は骨のもとなんだから。私たちには脂肪のもとにもなるけど」

最後の言葉がぐさりと突き刺さり、思わずアゴの下に手をやった。

代謝が落ちてきたせいか、輪郭のたるみが気になっていた。お腹もさわってみる。ワンピースを選んで着たわたしの深層心理に、おしゃれよりもお腹周りが楽チンだから、という下心はなかったか。

前にこのワンピースを着たのは、3ヶ月ほど前に会社の送別会で、女性の後輩とランチバイキングを食べに行ったときだったと思い出して、ギクリとする。

「ダイエットねえ」

悶々と自問自答し始めたわたしにはかまわず、ハルコさんはテーブルを拭きながらつぶやいた。

いつもなんとなく痩せたいとは思っているけれど、その先の目標が思い浮かばない。恋の一つもすれば、やる気が出るのかしら。

「そうだ。今日、とっておきのものがあるんだった。その子に、特別メニューを作ってあげよう。莉子ちゃんも、食べてみて」

小さくウインクをして、厨房の奥へ消えていった。

「カフェあした」って実家みたい。お店に来ていることを忘れてしまう。ハルコさんはどうしてこんなに懐が広いんだろう。

小さな窓から外を見た。澄み渡った青空に、綿菓子のような雲がなびいていた。

(明日の朝より第4週がはじまります。どうぞお楽しみに!)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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