(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第2週は「おにぎりに恋をして」。
第9話:おにぎりに混ざっているのは
(第2週:おにぎりに恋をして)
味噌汁をすする。ダシの香りが鼻に広がり、味噌汁のおいしさが口いっぱいに広がる。
おにぎりを食べてみる。米の粒が口の中でほどけるなか、プチプチした食感の粒を舌が追いかけて歯が噛み砕く。ほのかに甘くて香ばしい。
「これ、なんですか? ゴマにしては大きいし」
口を動かしながら、カウンター前に戻ってきたハルコさんに尋ねた。
「なんだか分かる?」
「どこかで食べたことのあるような味の余韻があるんですけど」
「それはね、エゴマの種なの」
「韓国料理によく出てくる葉っぱの?」
「そう、種って珍しいでしょう」
ハルコさんは、厨房の台の上に置いてあった紙袋からビニール袋を取り出した。ビーズのように小さな種がぎっしりと入っている。
紙袋は昨日のイケメンが持っていたものだ。
「フライパンで軽く炒って、ご飯に混ぜておにぎりにしたの」
おにぎりをもう一口かじり、ゆっくりと噛みながら、舌に意識を集中させる。
そういえば、韓国料理屋で焼肉を包んだ葉っぱの風味の記憶に結びつく。ほろ苦いのに、かむと独特の甘みがある。食感があるから、普通のおにぎりよりもよくかんで食べられる。食べ応えがあって、満腹感も得られやすいかも。
「どうかしら?これまでのお客さんも喜んでくれているみたいなのだけど」
「わたし、けっこう好きですよ」
「ほんとう?良かった。これでいけるな、よし」
ハルコさんはカウンターの奥で小さくガッツポーズをした。
「これね、行き先を失った、迷子のエゴマちゃんだったの。たくさんあるから、おいしく食べられる方法はないかなって考えてたのよ」
ハルコさんの説明によると、こんな経緯だ。
夢野市には夢野大学という小さな大学がある。文系中心の小さな私立大学だ。附属の語学センターで留学生を受け入れている。
種の運び主は、韓国人の女子留学生で19歳のヨンヒちゃんだった。
(明日の朝につづく)
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「韓国風コチュジャンそぼろ親子丼♪」(by:みぃさん)
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。