[あしたの朝ごはん]第10話:エゴマ、海を渡る

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第2週は「おにぎりに恋をして」。

第10話:エゴマ、海を渡る

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(第2週:おにぎりに恋をして)

ヨンヒちゃんは、韓国料理をこよなく愛し、地球上のどこへ行っても、コチュジャンとニンニク、エゴマの葉がなければ生きていけないという女の子。

日本に留学するときの荷物は、スーツケース2つとダンボール箱3つ。

ダンボールにはいつでもどこでも使えるようにと、チューブタイプの携帯用コチュジャンを大量に持ってきていた。

夢野大学から近い留学生用の宿舎に住んでいたが、生活は長くは続かなかった。

「韓国人の男性って兵役に行かなきゃならないでしょう?」

ほうじ茶の葉をいれた急須に、熱いお湯を注ぎながらハルコさんが言う。

聞いたことはあった。韓国では特別な事情がある場合をのぞいて、すべての男子が20代の前半くらいに軍隊に入って働かなくてはいけない。

ハルコさんは、手首をしなやか動かし、おにぎりを結んでいる。今日も白い綿シャツに、茶色のエプロンを締めている。背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、手先を働かす。いつ見ても所作の美しい人だ。

「彼が2年のお役目からようやく解放されるというので、ヨンヒちゃんはわざわざ一時帰国して待ち合わせの駅まで迎えに行ったんだって。そしたら、別の女の子も彼を待っていた」

「なんと。韓国の若いカップルじゃ、あるあるネタのような気もしますけど」

頭のなかで、韓流ドラマのもの悲しいメロディーが流れ始める。

「でね、ヨンヒちゃんは失意のうちに、家にこもってしまって。日本にも戻ってこなくなっちゃったって」

「で、なんでこのエゴマの種が?」

扉の開く気配に、入り口を見た。あ、あのイケメン、と思ったと同時に、ハルコさんが

「ケイ」

と呼びかけた。

むぐぐ。声にならない声が喉元に出かかった。今日に限ってメイクをしていない。

眉毛は描いてきたものの、寝坊したから日焼け止めクリームしか塗らずに出てきてしまった。

波多野莉子、30歳。恋人はいないが、まだ女を捨ててはいない。すっぴんで出てきた自分を責めながら、まぶしすぎるイケメンに思わず顔をそむけてしまう。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「アボカドともやしのナムル」

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エゴマよりも身近な「ゴマ」を使って、韓国料理の定番「ナムル」の朝ごはんはいかがですか?アボカドの栄養と鮮やかな黄緑色に元気をもらえそうな一品♪

アボカドともやしのナムル」(by:ゆりりんさん)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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