「やっぱり」
藤井君は、意味が分からないという顔をしていた。
「藤井君。ありがとう。ホントに好きだった。高校卒業しても、そうだ、ずっとアイドルだったんだよね。わたしも勝手に藤井君の偶像を作り上げていたみたい。ちょっと我を失ったけど、いまやっと分かった」
「着いてきて、くれないのか?」
「ここまで訪ねてきておいて最低だと思うけど、私にとって、本当に大事なこと、いまやっと分かりかけてきた」
藤井君には、手紙を書くと言って部屋を出た。いま、藤井君を目の前にして、冷静に話せる気がしないから。
人は生まれながらにして罪人だ。
孔子の言葉が痛いほど突き刺さる。
大事な人も、大事な思い出も、大切にしたい。しまって置けば、そのままでいられるのに。
けれど、蓋を開けなくてはならない時がある。
大事だと思っていたものが、姿を変えていることもある。
大事だと思っていたものが、壊れていることもある。
でもたいていのことは、蓋を開けた側が、勝手に見方を変えただけだ。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。