藤井君は、ずっと抱きしめてくれた。
あの日から、突然いなくなったこと、
雪乃からは、私が同期と結婚すると聞かされていたこと、
LINEしか交換しなかったから連絡すらできなかったこと、
フラワーアレンジメントの教室にも聞いたが、個人情報は教えられないと言われたこと。
裕太君に、勤め先を教えてもらったけど、結婚相手がいるところに土足で踏み込むことは良くないと思ったこと。
藤井君が必死に話してくれることは嬉しかった。
でも、熱を帯びていたカラダが、ゆっくりと冷めていくのが分かった。
藤井君は、勝てる試合しかしないんだなって分かった。
藤井君は続けた。
わたしのエッグベネディクトの写真を毎朝見ていたと。
「藤井君は、本当のわたしのこと、知らない。本当は、わたし、朝が苦手なんだよ」
「知ってるよ、萌乃が最初にここに来た夜、やばい!っ言いながら、時計を探してた。あれは、朝が苦手な証拠、だろ?」
「そう、苦手なの」
「でも、萌乃は頑張って朝起きてる。そういう健気なところ、好きだよ」
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。