裕太と藤井君とひとしきり立ち話をした後、私は、浮ついた心のままアレンジメントをしていた。
裕太は、藤井君の担当トレーナーなのだそうだ。
藤井君は週に1度、カラダを鍛えていて、裕太は、藤井君のことを筋がいいと嬉しそうに話してくれた。
雪乃も近くに住んでいることを伝えると、なぜか裕太も含めて4人で飲もうという運びになった。
どんな形でもまた再会できるのが嬉しい。あの頃のときめきが戻ってきた。
静岡の海辺にある高校。
憧れの高校に猛勉強の末に入学したわたしは、1年生の1学期の頃には既に、憧れだけで高校を選ぶべきじゃなかったと後悔していた。
進学校の学習スピートに着いていけなくなったのだ。
それでも、この高校に来て良かったと思えたのは、同じテニス部で成績優秀だった雪乃のおかげで、
劣等生ながら、楽しい高校生活を送れたからだ。
そして何より、藤井倫太郎がいたからだ。
テニスコートの隣のサッカーコートでいつも楽しそうにボールを追いかけていた藤井君に恋をしていた。
潮風の気まぐれでボールが飛ばされてれも、異様にべとつく汗も、気にならない。
見つめていられるだけで良かった。
私は、たくさんいるライバルと戦うことすらしなかったが、テニスボールがサッカーコートに飛んでいく度、胸が高鳴った。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。