朝読書におすすめの本をご紹介する『まっこリ~ナのCafe BonBon』。小説やエッセイ、暮らしや料理の本など心に効く本をセレクトしています。
今日の「まっこリ~ナのカフェボンボン」の本棚は、心がざわつく本。
平穏な日常の危うさ、人間心理の表と裏に心がざわざわする2冊をセレクトしました。作家・日影丈吉の長編小説『女の家』は、昭和三十六年に刊行された銀座裏の町にある家を舞台にした女主人をめぐる物語です。もう一冊の『ママがやった』は、人気作家・井上荒野の不穏な家族小説です。母親が父親を手にかけた。そこから始まる家族の物語。8つのストーリーから、さまざまな愛かたちが見えてきます。休日の読書にどうぞ。
『女の家』
著者:日影丈吉
出版社:中央公論新社
女の家。謎めいたタイトルに魅かれます。家の女主人、折竹雪枝を彷彿とさせるカバーの絵にも。女の家で一体何が起きていたのか、外からはうかがい知れないミステリアスな雰囲気が漂う小説です。
冬の夜、銀座の裏通りにある家でガスの漏出事故が起き、女主人の折竹雪枝が亡くなります。死の状況をめぐり、現場に駆けつけた刑事と女中の乃婦(のぶ)が交互に語り出し、雪枝が大会社の社長の愛人であったことや十一歳の一人息子がいること、息子の家庭教師が出入りしていたことなどが判明します。雪枝が社長の本妻公認であったこともわかってきます。
「かなり辛抱づよく世間を見てきたつもりである」という乃婦からは驚くような証言が。女の家のさまざまな秘密やタブーが明るみになります。家庭教師の若者が家族同然に毎日出入りし、風呂まで入っていたことも引っかかります。なんだか全然、平穏じゃなさそう。不可解な事件の真相は果たして……。
その家に住む者、出入りしていた者の思惑や心情が絡み合い、家の中はさぞ息苦しかったのではないかと想像してしまう。とくに家の内側から見た人間模様は複雑で奥行きあり、雪枝や乃婦の人生の哀しみが当時の銀座の風景とともに深い余韻を残します。女の家の表と裏。見てはいけないものを知ってしまったようで、心がざわついて仕方がない一冊です。
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『ママがやった』
著者:井上荒野
出版社:文藝春秋
ママがやった。母親が父親を殺してしまった。母親の百々子が営む居酒屋に、知らせを聞いた子どもたちが集まっているのだけれど、誰もあまり驚いている様子じゃない。淡々と経緯を語る母親も含めて。昼ご飯を食べながら、まるで花見の相談でもするように殺人隠蔽の話し合いをしているのです。「ちょっと買い物してきて頂戴。ブルーシートが必要なのよ」——。
ママは79歳。パパは72歳。母親より7歳年下で、愛人がいた父親。でもそれは最近始まったことではないのに、なぜいまになって。そう思うけれど、夫婦の本当の関係なんて誰にもわからない。百々子は夫を手にかけた理由を語りません。そこが物語のカギなのだと思います。
8つの連作短編には、過去半世紀にわたる家族の物語が、それぞれの視点で描かれています。「ママがやった」の前につくのは、とうとうなのか、やっぱりなのか。夫は妻を愛していたのか。百々子に予感はあったのか。
家族だから夫婦だからこそ知りたくない。目をそむけていたことがふいに露わになったとき、日常はあっさり崩れてしまう。それでも、居酒屋の客席で家族は昼食を食べ続けている。母親の作った筍ごはんと姫皮の味噌汁と玉子焼き。変わらぬ日常がいまもそこにあるかのように。不穏な気配と平穏が入り混じる、たまらなく魅力的な物語にしびれます。
詳しくはこちらの記事をどうぞ。
*『女の家』
*『ママがやった』
ラブ&ピースな一日を。
Love, まっこリ〜ナ
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