[あしたの朝ごはん]第46話:野心より出世より朝ごはん

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第7週は「ピンチはチャンス?!」。

第46話:野心より出世より朝ごはん

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(第7週:ピンチはチャンス?!)

尋ねたわたしにハルコさんは首を振った。

「それがね、逆らしいの。事情は分からないんだけど、みどり総合商社の役員クラスにはなぜか夢野支店の経験者が多いんだって」

「ふうん、出世コースってわけかあ」

一匹狼のわたしには、出世なんて別世界の出来事だなあ。

会社員時代から興味はなかったけれど、フリーになるとますます関係ない。わたし、もっと野心を持たないといけないかなあ。

それより、朝ごはん朝ごはん。

サンドイッチって大好き。簡単そうに見えて、いろいろと手間がかかるんだよね。きゅうりもトマトもとってもみずみずしい。卵もふわふわしておいしい。

若葉のようなやさしい緑色のポタージュスープは、そら豆の濃厚な味がする。

そら豆ってそのまま食べても美味しいけど、スープにしてもとっても優秀。季節の野菜を食べられるって幸せだなあって思う。

小粒のイチゴがかわいらしく並んでいる。採れたてということは、朝7時の開店前に買ってきたってことかな。そんなに早くどこで仕入れているの?

毎日のように店に通っていると、聞いてみたいことがいろいろと出てくる。

そもそも、朝ごはんだけのお店ってことは、ハルコさんは午後からなにをしているんだろう。

「カフェあしたの食材っていつ仕入れてるんですか。朝も早いのに」

「野菜はね、だいたいうちで……」

とハルコさんが言いかけたところで、別のお客さんが飲み物を注文した。

今日は忙しく、店が混み合ってきた。一人で切り盛りするハルコさんの負担にならないように、そそくさと食事を済ませて店を出ることにする。

「ごちそうさまでした」

店の外に出ると、さっきの女性がなにやら携帯電話で熱心に話しこんでいた。

軽い会釈だけしして、前を通り過ぎようとしたときだった。ヒールのかかとを鳴らして、女性はわたしの前に立ちふさがった。

「波多野莉子さんでしょう。お時間ありますか」

断る隙を与えないかのように野太い声で問いかけてきた。

「あ、はい」

そうこたえるよりほかない。わたしには時間が有り余っているのだから。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「あえて手間をかけてつくりたい!きゅうりだけのサンドイッチ」

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ハルコさんのサンドイッチって、シンプルで丁寧、素材の味がしっかり濃くて、食べごたえがありそう…そんなイメージじゃありませんか?実際に作ってみるとわかりますが、ほんと、おいしいサンドイッチって、実は手間ひまかかっているのですよね!(それを理解している莉子は、エライ!)

今回は、細く刻んだり、ちゃんと水気を切ったり…手間はかかるけど、そのぶんものすごくおいしくなる、シンプルのきわみ、きゅうりだけのサンドイッチレシピをご紹介します♪

<オンリ~きゅ~♪サンド>」(by:槙 かおるさん)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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