[あしたの朝ごはん]第15話:お気に入りのワンピースで

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。今日からはじまる第3週は「女友達と待ち合わせ」。

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第15話:お気に入りのワンピースで

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(第3週:女友達と待ち合わせ)

朝から体を包み込むようなあたたかさが満ちている。こんな日はお気に入りの服で出かけよう。

グリーンのシンプルなワンピースは、オフ用の服で一番のお気に入り。ひざ上の丈に、手首のみえる七部袖。

カーディガンは羽織らず、ワンピースだけが軽やかで心地いい。茶色のショートブーツを履くと、背筋が伸びる。

川沿いの桜はとうに葉桜になっている。自転車に乗らない日は、木々の葉やあぜ道の花が日々変化していることに気付く。

夜が明けて朝が来る。単調な繰り返しが、季節のページをめくっていく。

人生を四季にたとえるならば。わたし、波多野莉子もちょうど今くらいの季節にいるのかもしれない。

新芽が生まれ、初夏に向かって勢いよく育つとき。よし、がんばるぞ。

30歳を過ぎたら、こんなふうに自分で自分を励ます技術もついてくるものだ。

「カフェ あした」には今日も「open」の表札がかかっている。

「おはようございます」。明るいハルコさんの声が出迎えてくれる。

いつものカウンターではなく、テーブル席に着いた。店全体が見渡せて新鮮な感覚だ。

「莉子ちゃん、今日は珍しくテーブル席なのね」

厨房の奥で白いホーローのやかんを片手に、ハルコさんが話す。

「友達と待ち合わせしてるんです」

「じゃあ、もう少ししてから出したほうがいいかしら」

「はい、お願いします」

会社を辞め、フリーになってよかったと思うのは、誰かに会いたいときに都合をつけやすいことだ。今日は、高校の同級生だった片平由美に会う約束をしている。

ハルコさんの妹であり、夢野市の広報課に勤めるケイさんの紹介で、市が月2回発行する広報誌にコラムを書かせてもらえることになった。

なんと顔写真入りの署名記事だ。

顔を売るにはもってこいだけど、狭い夢野市のこと。すっぴんで出歩けなくなってしまうのはちょっと心配だ。

自分の書いた文字が、誰かに届くのは本当にうれしい。

勤めていた編集プロダクションで署名入りのコラムを書いたことはなかった。話題の店を紹介したり、花見や花火など季節の行楽情報をまとめたり、いわば情報屋というところだった。

わたしが感じている思いを言葉に載せて、誰かに伝える仕事がしたい。波多野莉子、という名前のもとに。

ともあれ、おもしろいネタを探そうと、2人の子供を育てている専業主婦の由美を呼び出してみた。

(明日の朝につづく)

今日のおすすめレシピ「チーズとアボカドのトースト」

(ストーリーに関連するおすすめレシピや記事をご紹介します♪)

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桜がおわると、新緑の季節。莉子が選んだワンピースとおなじ緑色、このシーズンにぴったりのアボカドトーストをご紹介します。クリームチーズのミルキーな味わい、トーストのカリッとした食感との相性も抜群ですよ♪♪

クリームチーズ&アボカドのトースト…」(by:みっこ*mikkoさん)

レシピはこちら♪ >>

(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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