「そして、この穏やかな環境だから出来る私なりの生き方を探そうってね」
にやっとした安子をみて、そうだ、猫だった、と再認識して私も笑った。
安子が言った、私のこと。一番早く結婚するって思ってた、おっとりした女子の私。
いまじゃ一番こじらせているけど。
「安子の見立ても外れたってことか」
私がふいに話すと、安子は私がどの話題のことに触れたのかすぐに感づいて
「でも、奈美はみんなに祝福されて幸せになると思うよ。
びっくりさせるのでもなく、大丈夫って心配させるのでもなく、みんなが拍手できるような幸せをね」
今度は穏やかな笑顔を見せた。
誰からも好かれる、それは才能だから。奈美のペースでいいじゃない、そう言った安子の表情が、少し寂しそうだったことには気付かないでいようと思った。
安子特製ジンジャークッキーをお土産にもたされ、安子のウチから出たとき、急に秋の風を感じた。
事件も事故もなかったけれど、今年の夏は、暑かったな。
生温い風を運んできたバスに乗り込んだ。
(この小説は、毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。