その日は、朝起きてカーテンを開けた瞬間から、真夏日だと悟った。浅い青の空に、建物は照らされて黄色がかる。
夏は、女の季節だ。
そう、太っていなければ———。
潮風がほんのり香る日曜の午前。中華街駅の地上へ上がり一呼吸すると、元町本通りではなく一本裏の石畳の仲通りを迷わず選ぶ。
編集アシスタントをしていた頃、編集部の先輩はよく言っていた。
「時間に余裕があるなら、いつも違う道を歩け」
普段はできるだけ助言に従う私も、中華街駅に降り立った後だけは、いつも自動的にこの仲通りを歩く。
ふぅ。
変わらず私を迎え入れてくれる通りに、ほんの1秒足を止めて、歩き出す。その心の落ち着きは一瞬で、また私の心は少しざわつく。
なぜならば、あと10歩先の、煉瓦づくりの2階、その場所が近づいてくるからだ。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。