【朝の小説:シンデレラの朝ごはん】4章「野心家の猫」Vol.39 結婚式の気持ち

 

vol39

「まぁ、疲れちゃったのよね」

「私も彼も限界に達して同棲を解消したら、最初は絶望でしかなかったのに、すぐに、こんなに生きるのが楽だったんだって気付いた。

調子を取り戻しかけたとき、今のダンナが声をかけてきたの。復活してきたとは言え、生きるか死ぬかの大恋愛した後で、誰も素敵には見えないし、もう恋愛は少し休もうと思っていたところだった。あまりにダンナがしつこいので、OKしたの」

安子の結婚式のこと、思い出していた。

穏やかな顔をしている彼の隣。正直なところ、安子の表情をあまり覚えていない。

「ものすごく好き!という感覚もないまま、でも穏やかで、この人と結婚しちゃおうって思って、私からプロポーズしたのよ」

「なにも知らなかった」

考える間もなく、ぽつりと言葉を放った。

「そう、若くして結婚するのに、逆プロポーズっていうのも悔しくて」

安子は穏やかに笑い声をあげて、いまスッキリしたわ、と言った。

身も心ももっていかれるような経験のあと、パートナーに出会ったのか。その歴史をなんだか愛おしく感じた。

「ダンナのその時の喜び方は忘れられない。いまはさ、私のなすことに小言ばっかりでうんざりなんだけどね。ため息つきたくなるような時は、その時の笑顔を思い出すようにしてる」

情熱的に愛した人と結ばれるのと、冷静にいられる人と結ばれるのと、どちらが幸せかなんて答えはない。

言えるのは、いま近くにいる人を幸せにしようとするその心が尊いのだ。

(この小説は、毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

 

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物語の登場人物

佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。

結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。

森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。

近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。

遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。

伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。

 

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朝の小説シリーズ

毎朝読みたい小説シリーズ「やっぱり朝は、二度寝が好き。(完)」「シンデレラの朝ごはん(完)」
Written by

石垣モンブラン

幼少期から創作好きで、3歳児で替え歌発表(笑)、小学時代に学習発表会の脚本、絵本を制作、中学から新体操やダンスの振付をはじめる。現在は、小中学生のミュージカル劇団「リトル・ミュージカル」主宰。台詞をこどもたち全員で創るという他にはないミュージカルの脚本原案、作詞作曲、振付を担当。だけど大人の恋愛模様が大好き。ライトノベルや映像脚本も執筆し続ける。

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