「安子は、大学時代にたくさん恋愛したじゃない?あれは、将来の伴侶を見極めてたの?」
大学時代、私たちは4人でいたけれど、授業が終われば、それぞれバイトやサークルがあって、休み時間しか話していないし、安子は、結局、その当時付き合っていた誰とも長続きはしなかった。
社会人になって付き合った1人と、1年くらいの同棲をした後、別れてすぐに付き合った彼と結婚した。
「そこまで大人じゃないわよ。でも、焦ってたかな、私なりに。由加利のように聡明さもないし、紗江のような美貌もない、奈美のようなおっとり系でもない。
そうそう、私は、奈美が一番に結婚するって思ってたよ」
安子は続けた、やりたいことは今すぐ見つかりそうにない。だから、早めに恋愛は片付けておきたかったのよ、と。
様々なタイプと付き合ってしっくりくる人がいなかった時、中学生の頃の初恋の人に出会ったと言う。
「中学生の頃は、損得感情もなしでしょ。ただ純粋に大好きだったから。社会人1年目の不安もまた、恋愛にドライブをかける要素だったみたい」
初めて聞く安子の情熱的な恋愛話に耳は完全に奪われていたけれど、安子の顔をずっと見つめていることができずに、ずっと波打つ紅茶を眺めていた。
「すぐ同棲したの。ほんとに、よくけんかした。大好きだったから。許せなかったり、嫉妬したり。一緒にいられないのなら、もう死んでやるって、生きるの?死ぬの?くらいの勢いよ」
思い出した。ちょうどその頃は、連絡が途切れていたころだ。みんな社会人になって忙しく、年に1回くらい顔を会わせては、近況だけ報告してお開き。
さっぱりとしたものだなと思っていたけれど、自分もそれ以上触れられたくなかった。
みんな、それぞれ戦っていたことは分かっていたらから。
(この小説は、毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。