翌日の朝、そうは言っても身体は重い。身体は正直だ。体脂肪は多少増えた。
それでも、今日、調整すればいいだけのことだ。紗江と通じ合えたことの方がよほど大切なこと。
その判断ができた自分のことを少し、好きになれた。
裕也にも、正直に話した。昨日の飲み会の相手は、紗江だったと。
裕也は、元気ならそれでいいとだけ、言葉少なめに話題を終えた。
裕也の中で、紗江のことが進行形なのか、完了形なのか、短いメッセージでは掴みきれなかったけれど、そのどちらでも私は受け止めたいと思った。
紗江は、店を出て、別れ際に言った。
「わたし、この舞台が終わったら、劇団を辞めようと思うの。戦ってきたなんてかっこいいこと言ったけど、劇団がなくては、立てる舞台もない。
それじゃ、女優だって胸を張って言うこともできないから」
紗江も今年30歳を迎える。きっと次のステージに向かうんだ。
紗江の苦労も、どんな戦いをしてきたかも想像がつかないけれど、これだと思う職業に出会えている紗江を羨ましく思った。
だから、紗江と裕也の関係が本当の意味で終わっていなくても、それならそれでいい、と思えていた。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。