私は店員に言った。
「フライドポテトと唐揚げを」
紗江は、大爆笑した。
「ありがとね、奈美」
私も、大爆笑した。
人間の心理がそうだとして、気持ちがシンクロする相手がいないとして、それでも、私は、紗江や由加利や安子を大切にしたい。
一方が絶頂で、一方がどん底で、一時的に離れることがあったとしても、完全に分かり合えなくても、それでいいんだって思いたかった。
正しいことだけが正解ではない。
ダイエット中の揚げ物だって、親友とおいしく食べることができるならいい食べ方だ。
その後は、紗江の演技の話、私の近況、ダイエットの経過、一気に語り尽くしたらあっという間に時間が過ぎ、かなり、カロリーも摂取してしまった。
初めて紗江と向き合った気がして、心はとても温かくなれていた。
友人グループっていうのは不思議だ。どんなに仲が良くても、4人で会えばそんなに深く心に入り込めるわけではない。
その日の帰りは、いつもお決まりの飲み会帰りのコンビニアイスも必要なかった。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。