紗江の本音を聞くのが怖いと思った時、私は裕也への特別な気持ちを確信した。
その気持ちは、ダイエットが終わるまで封印しよう。同時に、紗江に打ち明けるのも今は尚早だと、意思決定したその時、
「裕也は言ったの。『紗江は輝いていていいね』って」
やっぱり面白くないんだ、紗江の一言に心が泣き、身体は固まる。
私は、そんな心が強くない。親友の気持ちを裏切ってまで、恋愛に走ることもできない。
でも、良かった。引き返せないほどではないから。
いつもの調子で私は引き際を考えた。
自分の感情をコントロールすることには、慣れている。慶太さんのことだって、ずっと心に秘めてきた。
鼓動を沈めようと、私は、メニューを手にした。
「そういうの大っ嫌い」
想定外の紗江の言葉に、ページをめくる手を止めざるを得なかった。
「こっちは必死に戦ってきたの。そういう小さな、妬みみたいな言葉は、私にとっては、邪魔だった」
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。