紗江の舞台はいつも、由加利と安子と観劇するのだが、仕事の忙しさ、こどもの預け先がないという理由で断りをいれてきた。
初日でも楽日でもない日、私はひとり劇場に足を運んだ。紗江が飲みにいこうというので、終演後、ご飯へ出かけた。
迫真の演技を披露した後の、主演女優と2人でご飯を食べるのは、なんだが恥ずかしく、誇らしい。
私が炭水化物を食べずにいると、流石に紗江がそのことに気付き、
ほっそりしたね、
紗江に言われ、少し嬉しくなる。1ヶ月経過して、3キロの減量に成功していた。
「奈美がダイエットに成功するなんて何があったの?恋でもしているわけ?」
いまこのタイミングで、裕也のことを話しておくべきだと思った。
「実はさ、1ヶ月前裕也にばったり再会してね
裕也ったら20kgも減量していたの!それで、ダイエットの方法をいまレクチャしてもらってるんだ」
私は、一気に言葉を放った。人をよく観察している紗江に、私の胸の内を見透かされたのではないかと、冷や汗をかく。
紗江は、「そうなの」と一言放ったのみだったが、その横顔は女優の表情だった。
そう、紗江は、感情をごまかす時女優になる。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。