どっぷり芝居にハマった紗江は、芝居で生きていくことを決意。
公演スタッフの1人に裕也がいた。
裕也は、劇団代表の友人で、興味もないが、本番スタッフとして手伝わされていたらしい。
ローラを演じている紗江のことを最初は「キレイな子だな」と思った程度だったが、演技の迫真さに舌を巻き、引き込まれていった。
裕也は紗江に言った。「続けたらいいよ、舞台。きっと居場所が見つかる」
裕也には、紗江がローラにうつった。
ローラのコンプレックスは不自由な足だったが、紗江のコンプレックスは容姿に見合う自分がいないことだ。
しかし紗江には、自分の感情を役に投影する芝居の才能があった。
紗江の目に安堵の涙が溢れた。
悲しいとか、嬉しいとか、そういう、高まった感情ではなくて、ただ、大きな深い吸気とともに涙がすうっと流れた不思議な体験だった。
紗江は、裕也に度々心情を吐露することとなり、いつしか2人は、かけがえのない存在へと変化したのだ。私たち友人4人とも、よくご飯を食べたし一緒に旅行にいくこともあった。
紗江が、大学を卒業し、正式に今の劇団に属してからは、自然と距離が生まれ、離れることになったと言う。
もう数年前の話だけれど、2人の結びつきの強さを感じていたから、裕也に紗江の話は、したくない。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。