それは、紗江の主演舞台に行くことだ。
紗江は、演劇業界では少し名の知れた中堅劇団の看板女優なのだ。
紗江は、華ある美人で、その上、憂いのある表情やしぐさをする。本人は特に意識していないのだが、所作が美しい。
紗江は、大学入学時に、複数の学生劇団から熱心に口説かれ、他大学の劇団からも声をかけられていたらしい。
2人で歩いていると気付かされる。
紗江の事を二度見する人の多さに。
その視線の集まり方の違いに自分と紗江の容姿の差を思い知らされ、最初は少し絶望した。
次第に私は容姿を気にしなくなり、その結果が今だ・・・。
私が羨ましいと思っていた紗江の容姿は、紗江自身を追い込んでいた。言われない誹謗中傷を受けることがあり部屋に閉じこもりがちになっていたのだ。
大学1年の夏。紗江が、一度きりという思いで舞台に立つことが決まった。
その演目は、テネシーウィリアムズの『ガラスの動物園』米文学の最高峰と言われる戯曲。
ガラスの動物園で紗江が演じたローラは足が不自由で引きこもっている。
このまま部屋に閉じこもってしまったらどうなってしまうのか、そう考えていた紗江は、衝動的に役を引き受けた。
それが、紗江の人生を変える出来事になった。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
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物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。