「LINEのID」という件名に、本文には、「yukari55」とだけある。
究極にシンプルに生きていて、超合理主義のキャリアウーマンの由加利らしいメールだ。呆れながらも、友達検索をしてメッセージを送った。
由加利からの返信も早い。
今晩の夕飯に行こう、可能であれば、昼休みに住民票と印鑑証明を取得して、実印も持ってこいと言う。
いくら10年来の友達とは言え、全く会話をしていない半年の間に由加利に何があったか分からない。借金を抱えて、連帯保証人になって欲しいというのも困るし、由加利が1年前に購入した高級マンションを買い取れと言われても無理だ。
憶測が頭を飛び交っている間に、由加利が再びメッセージを寄こした。
「今度カンボジアに小学校を創る非営利法人を立ち上げようと思って。理事になってもらいたいの、人数が足りなくて。何にもする必要はないから!」
またもや、私は由加利に置いてきぼりにされた。
ついていこうとあちこち思考している間、ついついパンに手が伸びていた。
(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。