「じゃ、お先~」
と肩をたたいて、ことみが会社を後にした。
私も支度をして、従業員口を出ると、既に誠士が待っていた。
真剣な表情をしながら、隣で誠士が運転している。
社用車ではないみたい。
こんな車持ってたんだ、
横顔ってこんなだっけ、
知らない誠士の面に少しドキドキしていたら、誠士がCDのスイッチを入れた。
息が止まりそうになる。
高校の時に好きだった曲だ。
昨日のことが一気に思い出された。
同時に、緊張が解けて、大笑いした。
「誠士ってさ、ホント空気読めないよね。ごめん、しょうがないんだけどさ」
そう言うと、誠士は最初ムキになってその理由を求めたが、あまりに私が笑うので、笑い始めた。
私は、誠士に隠れて、少し涙を吹いた。
雪乃のことがどうってより、自分が17歳のまま、恋愛偏差値も人生経験値も低いままだったことへのショックが、ボディブローのように効いてきた。
「ここ」
誠士が車をとめた。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。