誠士が連れて来てくれたのは、郊外の一軒家フレンチだった。
ミシュランでこそ2つ星だけど、関東イチ予約がとれないことで有名なお店。
「わたし、誠士にこのお店のこと話したことあった?」
「いや?この店、オレも行きたかったの」
「わたしもずっと行きたかったの、予約どうやってとったの?」
誠士は満足そうな表情をして、店にエスコートしてくれた。
最初に出会った飲み会で、学生みたいに騒いでいた誠士。
幼く感じていたけど、今隣にいる誠士は、頼りがいがあって、いつの間にか、精神的にも追い抜かれたような感覚に陥った。
「ホントにありがとう」
素直に言葉がでてくる。
誠士が優しい表情をした。
「萌乃は、仕事、順調?」
「うん、そうだね。支店の人たちみんないい人だし」
「でも、ずっと同じメンバーだろ?支店」
「そうね、岩田さんなんて10年選手だ」
と言って笑っていたら
「それでいいの?萌乃は。ずっとテラー(窓口業務)で」
「え?」
「オレも随分と苦労したんだ、同期はみんなライバルだし
ひとつでもミスしたら、銀行では上にはあがれないだろ?」
誠士は何が言いたいの?
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。