誠士が頑張ってきたのは尊敬する。
けど、そんな風に言われるとカチンとくる。
「窓口業務って本当に大切だよ。
個人のお客さんは、銀行と言えば、私たちなの。
私たちが誠実に対応するから、信頼して大事なお金を預けるんじゃない。
やっぱり総合職の人は・・・」
「萌乃、ごめん、そういうつもりじゃないんだ」
こんな真剣な表情を見たことがなくて、息を飲んだ。
「オレ、来年、ロンドン支店へ行くことが決まった」
一瞬、びっくりしたけど、思い出した。
誠士の希望は海外赴任だった。
しかもロンドンは誠士が一番行きたかった支店。
さっきの話を忘れて、一緒になって喜んだ。
「もう少しじっくり行く戦略だったけど、計画変更。
萌乃、ロンドンに着いてきてほしい。
オレが萌乃のこと好きだから」
————。
こんなことって急に言われるもの?
仕事の話をしたのは、探りを入れるため?
頭が大混乱したあと、頬に生あたたかさを感じて驚いた。
あれ、わたし、泣いてる?
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。