(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第7週は「ピンチはチャンス?!」。
第45話:人をつなぐ仕事
(第7週:ピンチはチャンス?!)
おいしい朝ごはんだけはちゃんと食べたい。そのための500円はケチらず必要経費として払いたいのだ。
いまのわたしにはカフェあしたに通うことが生活の生命線みたいなもの。
来なくなれば、昼夜が逆転してしまうかもしれないし、一日中家に引きこもってしまうかもしれない。
ともかく。
今日はパンの耳を適当にアレンジして、昼ごはんにしよう。ちょっと貧乏くさいけど、まあいいか。
「莉子ちゃん、こんなふうにとじてみたんだけど、どう?」
ハルコさんがわたしの署名入りの記事を切り抜いて、薄茶色のスクラップブックに貼り付けてくれている。
夢野大学の留学生のこと、小学生のアイドル予備軍の奮闘ぶり、おまご豆腐の角田くんが語る夢野市の良さ、ちょっと変わった地元の食材……。
それなりに回数を重ねてきたなあと感慨に浸る。会社を辞めたから、こうやってコラムが書けたんだもんね。
「人をつないでるのよね、莉子ちゃんの記事って」
ハルコさんがページをめくりながら言う。
「記事のことを話題にしてるお客さん、けっこういるよ。書くって影響力あるよ。すごくいい仕事よね」
憧れのハルコさんに言われると、ますますうれしい。うん、頑張る。収入は不安だけど。
そのときキャリアウーマン風の女性が席を立ち、会計を済ませて外へ出て行った。
「ハルコさん、さっきあの人、笹野商店で見かけたんです。買い物もしないで、お店の中をじっと見ていたか不思議に思って」
「もしかしたら、市場調査でもしてたのかな。大手商社とはいえ、地元で根強い人気の笹野さんところの動きは気になるだろうから」
「大手って?」
「あの方、開店した1年前からずっと来てくれててね、みどり総合商社の夢野支社で働いてるんだって。いわゆるバリキャリよね」
「あの、みどり総合商社ですか。すごーい、超エリートじゃないですか」
ビジネスに疎いわたしでも聞いたことがある、日本で指折りの大手商社だ。
強烈な個性の会長はメディアに頻繁に登場して、印象が強い。
徹底的に無駄を省く効率主義で経営を引っ張り、小さな中小企業を一代で国際企業に成長させた手腕がよく知られている。
「でも、きっと夢野支社なんて地方だし弱小ですよね。左遷、とか?」
(明日の朝につづく)
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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。