[あしたの朝ごはん]第35話:大丈夫、また誰かを好きになれる

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第5週は「思い出す恋」。

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第35話:大丈夫、また誰かを好きになれる

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(第5週:思い出す恋)

「莉子さん、おまご豆腐の思い、夢野市の人にちゃんと伝えてな。取材、いつでも待ってます。よろしく頼んます」

律儀に頭を下げる一徹くんを見て、胸が騒ぎ出す。次は約束して会えるんだ。

「あの……」

自転車の鍵を外していると、一徹くんは恥ずかしそうに目線を泳がせて何か言いたげだ。

「ケイさんはこのコラムに関係してるん? ハルコさんの妹のケイさん」

わたしが思わずイケメンと勘違いしたほどかっこいい、夢野市のふるさと広報課に勤める恵さんのことだ。美しい顔が頭によぎる。

「ぼく、彼女のことちょっといいなって思ってるんやけど、取材に同席してもらったりすることできるんかなあ」

デレっとした表情の一徹くん。

な、なんと。失恋から完全復活したと思った矢先、振り出しに戻ってしまった。

動揺を見透かされないよう、平生を装ってこたえる。

「え、あ、あの。うーん、どうでしょう。彼女いつも忙しそうだから。ま、でも一度、相談してみますね。

そうなんだぁ、きりっとした感じがタイプなんですね。わたし、記事も書いて、恋も応援しちゃいます」

「頼むワー、おおきに。じゃ、また連絡します」

走り去った一徹くんをみて、苦笑いした。

わたし、もうちょっと積極的になってもいいのに。また自滅してしまった。恋におくてなのは、いつまでたっても直らないなあ。

空を見上げると、肩まで伸びた髪を柔らかい風が通り抜けていく。

「つまんない」

林太郎の声がよみがえる。

忘れていたつもりだったけど、やっぱりこうして思い出すのは、暇な時間ができたからかな。それとも、変わりつつあるわたしを見てほしいからかな。

編集プロダクションで忙しく雑用をこなす新人社員だったころ、夢野市まで会いに来てくれた林太郎に、仕事なんか辞めて、林太郎と一緒に暮らしたい、料理も洗濯もやれば意外と得意かもしれないし、と話してみたことがあった。

彼は喜んでくれると思った。でも、「そんなのつまんないよ」と冷たく言われたのだ。

林太郎はあの彼女と美容院を成功させているんだろうか。林太郎も、やりたい仕事ができているんだろうか。

そういえばもうすぐ、林太郎の誕生日だ。電話、してみようかな。会社辞めてフリーになったことを伝えたら、見直してくれるかな。

思わずスマホを取り出して、番号を探す。

カフェあしたの扉が開く音がして、振り返った。ハルコさんが、「CLOSE」に看板を替えたところだった。

目が合うと、にこりと笑って扉を閉じた。空色の扉の前には、オリーブの木が元気よく茂っている。

林太郎の番号表示を見て、削除ボタンを押す。

わたしは次へ行く。

きっとまた、誰かを思い切り好きになれる日がくる。

(明日の朝より第6週がはじまります。どうぞお楽しみに!)

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始まる前に終わってしまった…莉子の気持ちは、そんな拍子抜け感いっぱいのはず。でも、一瞬でも誰かを好きになりかけた、そのことで自信を取り戻したポジティブな莉子…本当に、お見事ですよね!!

莉子が過去をすっきり吹っ切って、ハッピーに前進できるよう、ミキサーをガーーッと豪快に回して、美肌スムージーを作ってあげたい♪そんな応援の気持ちで作りたい、朝スムージーレシピをご紹介します☆

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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