再開したフラワーアレンジメントに集中した。先生も、突然来なくなったことを本当に心配していたそうだ。
「立川さんは、才能あるし、いつかはディプロマをとって欲しかったのよ」
とおっしゃった。
私自身は、趣味のつもりだったから、先生の言葉には心底驚いたけれど、とても嬉しかった。
距離をとっていた分、大事なことが分かるのは本当だ。最初は、ちょっとした憧れの気持ちで始めたけれど、いつしか花の魅力に夢中になり、花の香りに癒されていたのだ。
「先生、わたし、ディプロマコース挑戦します」
心が一段と軽くなった。本音を口にできたら、見えるものが変わる。
まさか29にもなって、こんな挑戦をするだなんて。
銀行員は向いているし、職場は雰囲気が良くて、恵まれていた。
今も、それは変わってないけれど、夢ができたことで、視界が変わった。
年齢を言い訳にして、自信のなさから、想いに蓋をしていることがあるんだって気付いた。
でも一方で、蓋をすることも悪いことじゃないと知っている。
複雑だ。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。