その男性は裕太、と言うらしい。24歳。そして、パーソナルトレーナーをしていると言う。なるほど、どおりで、筋肉質なわけだ。
むろん、これは私が聞き出したのではない。私は、急いでいた。彼の自己紹介を何度も遮ろうとした。
その空気を察すると、それでも話を聞いてくれと言うように、その都度新しいネタを振ってくる。運動神経がいい。
このやりとりの間に分かったのは、裕太が私のことを半年前から知っていたということ。
フラワーアレンジメントの教室と、彼が勤めるパーソナルトレーニングのスタジオは隣り合っていて、私が入るタイミングといつも同じだったということ。
今月からパーソナルトレーニングジムの運営元が変わり、給与の支払い口座をわたしの勤務する銀行に変えて欲しいと言われ、口座を作りに来たということまで教えてくれた。
今日途中で帰ったのは、持っていたはずの判子を忘れたからだと。
「なんだ」
ちょっとした期待をしてしまった私に、また、くすっと笑ってしまう。
「ではまた、窓口でお待ちしていますね」
そう言って、立ち去ろうとした時。
「ずっと、ずっと気になっていました」
彼はまた大声で叫んだ。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。