ひさびさに訪れたこんな瞬間に、ときめかなったわけではない。
今まで出会ったこともない人種の人だからか、4つも年下の人だからか、はたまた年のせいなのか。大声で叫ばれても、その男性に惹かれはしない。
「何言ってるんですか、わたしはアラサーですよ。窓口でお待ちしてますから!お疲れさまでーす」
と口早に言うと、駆け足で教室へ入った。クールに決めたつもりでも、心はちょっと乱れた。
せっかくのローズのアレンジメントなのに、左右ボリュームのバランスが悪い。
「左側が一本多いかな、これでどう?」
先生は、一本左側からローズを抜いて整えてみせた。
「左側にボリュームが多くなるのって、恋してるからなんだよ」
「えっ?」
「やだー図星?」
ケタケタと笑う先生に初めてイライラした。こんな年にもなって、人前で真っ赤になる自分がひどく恥ずかしい。
もう、新鮮なものなど手に入らないと思っていたのに。少しフレッシュな自分を思い出させてくれた裕太には感謝した。
ローズのアレンジメントを片手にスマホを取り出すと、LINEに赤いマークがアピールしてくる。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。