職場からフラワーアレンジメントの教室まで歩く。アテンションもついていないのにLINEを立ち上げてしまう。
誠士からの返信は、ない。既読になっているのに。
その瞬間、思い出した。
「雪乃に返信していない!」
流石に、2日も返信していないのは失礼だ。
一生懸命、言い訳の文面を考える。「歩きスマホ」はいけないと思いながらも、今は友情を守るための大事な時だからと言い訳をする。女って身勝手なものだ。
「ご、ごめんなさい」
や、やっちゃった。マナーも悪いアラサーなんてみっともない。
「こちらこそ、すみません。スマホ持ちながらで不注意でした」
良い声で丁寧に謝ってきた、ぶつかった相手。それは、昼間、口座を作りに来た彼だった。
「あ、今日口座を作りに来てくださった・・・」
「その件は、本当にすみません」
平謝りをする男性を見て、なんだか申し訳なくなったわたしは、
「いえいえ、こちらこそ。では」
スマホをしまって急いで歩き出した。ごめん、雪乃。やっぱり後で、と心の中で謝りながら。
「ちょっと待ってください」
その男性は大声で叫んだ。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。