(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第5週は「思い出す恋」。
第31話:涙をぬぐって、朝ごはん
(第5週:思い出す恋)
こよなくお酒を愛していた林太郎は、大学を卒業してビール会社に就職した。
東京で就職先が見つからずに夢野市に戻ったわたしと、新入社員として北関東の支社で営業マンになった林太郎。
遠距離恋愛を乗り越えて早く結婚したい、と思っていたのはわたしだけだった。お互い社会人になって1年もたったころには電話で話すことはおろか、メールの返信もほとんどなくなった。
サプライズを企てて林太郎の住む社宅に突然行ったのは就職2年目のゴールデンウイークだった。
玄関のブザーをならすと、スタイル抜群で完璧なメイクをしたロングヘアの女の人が出てきた。
にぶい私はそれでも気付かなかった。林太郎の親類が遊びに来ているのだと思った。ところがどっこい。女の人は半年以上も前から林太郎の「彼女」だった。
その夜、近くの居酒屋でわたしと林太郎、女の人の3者会談をした。
女の人は地元でファンがつくほど人気のカリスマ美容師らしく、独立して店を持つ準備中だという。林太郎も近く会社を辞めて手伝うのだと話した。
2人は本当にすまなさそうにわたしに頭を下げたけれど、林太郎の口ぶりに、彼女を心底誇らしく思い、尊敬のまなざしで見ていることをひしひしと感じた。
ただ一緒にいてホッとするだけのわたしとは全く別物なんだと印象付けるかのように。
久しぶりに記憶のかさぶたをはがすと、あの日の林太郎が鮮明によみがえってくる。目尻ににじんだ涙をごまかすように目をしばたたかせる。
物思いにふけるわたしに、ハルコさんがやさしく話しかける。
「今日はおもしろいもの用意したから、莉子ちゃんの感想も聞かせて」
〈野菜たっぷりスープ、ライ麦パンのトースト、プレーンヨーグルト(おともはセルフで、お好きなだけどうぞ)〉
ん? おともってなんだろう?
ハルコさんがうれしそうに、厨房と客席を隔てているカウンターの上を指し示す。
白と黄色のチェックのテーブルクロスに、〈とちの花のはちみつ〉〈いちごジャム〉と書いた手作り感のあるラベルが貼られた二つの瓶。スプーンが差し込まれている。
朝の光を反射するように輝く縦長の瓶には〈えごま油 生絞り〉のラベル。横には岩塩をひくミルがある。
ガラスの器にこんもりと盛られたあんこの前には〈塩入り小豆こしあん〉と手書きの紙が添えられている。
「どれも、パンにもヨーグルトにも合うはず。試してみて」
ハルコさんが焼きたてのパンが載ったお皿を持ってきた。さっきまでのしんみりした気持ちはどこへやら。俄然、食欲という名の元気がみなぎる。
瓶を手に取り、ラベルを読み込んでいると、勢いよくドアが開く音がした。
(明日の朝につづく)
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莉子の過去の出来事…とっても切なく、胸にささりますね。そんなところに、焼きたてパンと、とろ~りあまいアイテムたちを差し出すハルコさん、大好き!
ジャムやごま油、こしあんも気になりますが、まずは、美肌効果もあって女子にうれしい「はちみつ」をつかった朝食レシピ、いかがですか?はちみつが、莉子のいやな思い出を、とろりとやさしく溶かしてくれますように。
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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。