(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。)
Vol.7 Week 1 「再会と新しい出会い」 (7)2年ぶりの再会
部長の招集に、少し予感めいたものを感じていた。2年前と同じような。急な出店計画の決定で、マンハッタンに住んだのは、28歳の時の3ヶ月だ。
わたしは手帳に挟んである2枚のクリスマスカードを眺めた。
ひとつは、キャシーからのクリスマスカード。毎日のように通っていたクイーンズにあるスタジオの女性オーナーでインストラクター。彼女はわたしの憧れ。わたしを包み、背中を押してくれる存在だ。
ふたつめのカードには、わたしの字。ずっと渡せなかったものだ。
「紗希さん、はい」
「出店計画の資料2部。紗希さんが忙しくなってヨガに来られなくなったら寂しいですもん。しっかりサポートしますから」
しおりは、本当に気がきく。怖さすら感じるほどに。そうして会議室の扉をノックする前、わたしはヨガの呼吸をした。
「おお、新城。こちら桜井だ、新城とは『TATAMI』のプロジェクトでも一緒だったそうだな」
予感は的中した。
「はい」
「では話は早い、これから桜井が『WATAN』の海外のマネージングディレクターを担当することになった。来年早々ボストンとワシントンのジャパンエキスポで様子を見てから、本格的に出店の有無を決定する。
イベント中は新城も現地にいってもらいたい。桜井は、年明けまでこっちにいるから、その間に2人がプロジェクトオーナーということでよろしく」
その会議のことは、あまりよく覚えていない。仕事に私情は挟まない主義だけど、いつ、このプロジェクトから外してほしい、と言うかそのタイミングだけをうかがっていた。
何度も、桜井真治が視線をこちらに向けるのを感じていたけど、それを平静に保つことを心がけた。こういう時は、こころにヘッドホンをあてればいいだけのこと。それも強力なノイズキャンセル機能つきの。
今日は早くお風呂に浸かろう、誰にも呼び止められないように、小さな声で挨拶して、オフィスを後にした。
「紗季、時間とれない?」
「誤解をときたいんだ」
何も言えずにどのくらいの時間が過ぎただろう。真治はうつむきオフィスへ戻っていった。
こんな形でまた、背中を見送ることになるなんて。
ヘッドホンをまとえば、聞こえないフリはできても、自分の内側に向き合わされる。結局わたしは、真治のことも、あのことも忘れられたわけじゃなかった。
(Week 2 へつづく)
今週のおすすめヨガ「ダウンドック」
Week 1のおすすめは、ダウンドック(下を向いた犬のポーズ)。ダウンドックはヨガの代表的なポーズで、身体の後ろ側が伸び、めぐりが良くなるだけでなく、心が疲れている時、力を抜きたいとき、全身が固まっている時に最適。吐く息に注目しながら、一定時間このまま静止すると、心も落ち着いてきます。
「ダウンドック」ポーズの流れ
- アップ・ドッグの姿勢から、足の指を立てる。
- 息を吐きながら「く」の字をつくるようなイメージで両手・両足を伸ばし、お尻を高く持ち上げる。
- 両手の平全体・両足の指の付け根に均等に体重を落とすようにする。
- 首・肩の力を抜き、背中・腰を気持ちよく伸ばす。
- 太ももの内側を意識し、後ろへ押すようなイメージで内転させる。
- ここで5呼吸キープ。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。