(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。)
Vol.2 Week 1 「再会と新しい出会い」 (2)視線の先にいるひと
いまは、一刻も早くアレックスのスタジオを目指すとき。
アシュタンガヨガというスタイルのヨガに取り組むヨギたちは、朝にスタジオに集って「マイソール」という自主練スタイルで行っている。
アレックスはアシュタンガヨガもかじっているけれど、世界中のヨガスタジオであらゆる種類のヨガを学び、彼独自のフリースタイルでヨガを教えている。
アレックスは、半年前、日本に定住を決めて、8人も入ればいっぱいの、小さな小さなスタジオを開いた。それが夏の終わり。そのときから通いつめ、毎日少しメンバーが変わったりするけど、いつものメンバーは数人に固定されてきた。
ヨガが終わると、「いってらっしゃい」を言い合い、「あしたの朝ね」って挨拶を交わすのが、とても好きになった。
いつものメンバーの中でも、最初からここに通うわたしが最初の108日目を迎えるのだ。
アレックスは、イラン出身のフランス人で、アメリカで育ち、日本で仕事をしていたらしい。詳しいことは分からないけれど、母国がどこだか分からない彼の家族の所在も、ばらばらだと言う。
アレックスは前につぶやいていた。「朝にクラスを開くのは、毎日のように通えるひとがいて、そのひとたちの居場所ができたら、僕にとっても家族ができるんだ」と。
その話をするアレックスの微笑みは、すぐ消えてしまいそうな儚さもあり、仏のような永遠さもあった。どっちでもいい。アレックスが家族を感じられるために、ここをわたし居場所にしよう、そう思ったのだ。
「よっ、今日も朝ヨガ?早いね」
「おはよ、おじちゃん、いってきます」
都心だけど下町の風情があるわたしの住む街から、スタジオまでは自転車で30分。いつだって気分は上々。自転車のペダルから足を外して、坂をくだったりして。
夜に輝くクリスマスイルミネーションで纏われたビルも、普段通りの顔に戻るクリスマスシーズンの朝。凍えそうに寒いニューヨークの朝を思い浮かべて。
わたしの頭の中はニューヨークの街の色で溢れている。SATC(セックス アンド ザ シティ)病だねって揶揄されるけど、わたしにとってみれば、南無阿弥陀仏より、聖書より、ヨガ・スートラよりも、SATCの名言は指南に満ち溢れている。登場人物たちのように不器用だって、自分らしく貪欲に生きていたいもの。
自分が幸せでいることが大切なのだ。ヨガをしているのもそういう理由。でもいったい“自分らしさ”ってどういうものなんだろう。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「ダウンドック」
Week 1のおすすめは、ダウンドック(下を向いた犬のポーズ)。ダウンドックはヨガの代表的なポーズで、身体の後ろ側が伸び、めぐりが良くなるだけでなく、心が疲れている時、力を抜きたいとき、全身が固まっている時に最適。吐く息に注目しながら、一定時間このまま静止すると、心も落ち着いてきます。
「ダウンドック」ポーズの流れ
- アップ・ドッグの姿勢から、足の指を立てる。
- 息を吐きながら「く」の字をつくるようなイメージで両手・両足を伸ばし、お尻を高く持ち上げる。
- 両手の平全体・両足の指の付け根に均等に体重を落とすようにする。
- 首・肩の力を抜き、背中・腰を気持ちよく伸ばす。
- 太ももの内側を意識し、後ろへ押すようなイメージで内転させる。
- ここで5呼吸キープ。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。