(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。)
Vol.6 Week 1 「再会と新しい出会い」 (6)鶴の一声
しおりがヨガを始めたきっかけは、アレックスだ。たまたま、会社の近くのスペインバルで、アレックスと飲んでいたとき、ちょうどしおりが同期の女子たちと同じ店に入ってきた。
しおりの表情が変わり、「一緒に飲みましょうよぉ」と言ったときは、ちょっとしまった、と思ったのだけど、いまはその出会いに感謝している。しおりがスタジオの仲間に入ったことで、落ち着いたトーンのスタジオの色彩が変わったからだ。
「アレックス、ぜったい紗希さんのこと特別扱いしてますよねー」
「気のせいでしょ、ないってば、ないないない」
今日のアレックスのハグが脳裏をよぎって、身体が震えた。
「紗希さん、風邪?」
「なんでもないよ、ご心配ありがと」
遠くから部長の声が飛んできて、ほっとする。
「新城、おはよう。次の販路開拓候補の件で、ちょっと相談。引き合わせたいひとがいるから、11時に3会議室まで来れる?」
はい、といつもより大きい声を出してしまう自分に、余裕のなさは明らかだった。
「出店計画の資料を2部用意しておいてくれ」
「嵐の前兆ですかね」
わたしの部のセクレタリをしているしおりは、こういう空気を読むのにも慣れている。
いま、わたしがアサインされているプロジェクトは、日本の職人にしかできない金属製造技術をつかったオリジナルプロダクトブランド『WATAN』の販路戦略。学生のころから憧れていたマーケティング部に配属になるために、結構がんばった。
新卒ではアパレルの総合職で入社したのだけれど、最初の1年の店舗スタッフで心が折れかけた。
ヨガを始めたのはちょうどその頃。仕事以外に、趣味を見つけて、自分が心地よくなるペースをつかめた時、たまたま実家の父の紹介でいまの会社に入った。
父は、厳格な職人で、『WATAN』の全製造行程を請け負っている工場の経営者でもある。
幼いころは、厳しい父を敬遠していて、反抗期からずっと素直になれないまま、東京の大学に出てきたしまった。
いつも父がわたしのやることなすことに反対してくるのは、能力がないわたしを愛してくれないからと思っていたのだけど、父はいつも「あいつは、もっと自分に向き合わんといかん。いい度胸とセンスを世の中に使うためだ」と言っていたことを後から聞いた。
だけど、いまだにちゃんと向き合えていない。表面的な自分の感情に押しつぶされてしまうわたしを父はどう見ているのだろう。
自分らしくいるために、どれだけ自分に向き合えば分かるのかな。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「ダウンドック」
Week 1のおすすめは、ダウンドック(下を向いた犬のポーズ)。ダウンドックはヨガの代表的なポーズで、身体の後ろ側が伸び、めぐりが良くなるだけでなく、心が疲れている時、力を抜きたいとき、全身が固まっている時に最適。吐く息に注目しながら、一定時間このまま静止すると、心も落ち着いてきます。
「ダウンドック」ポーズの流れ
- アップ・ドッグの姿勢から、足の指を立てる。
- 息を吐きながら「く」の字をつくるようなイメージで両手・両足を伸ばし、お尻を高く持ち上げる。
- 両手の平全体・両足の指の付け根に均等に体重を落とすようにする。
- 首・肩の力を抜き、背中・腰を気持ちよく伸ばす。
- 太ももの内側を意識し、後ろへ押すようなイメージで内転させる。
- ここで5呼吸キープ。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。