(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、1週間ごとにおすすめヨガポーズをご紹介します。)
Vol.3 Week 1 「再会と新しい出会い」 (3)自分の居場所は突然に
アレックスのヨガスタジオは、クイーンズにある小さな小さなヨガスタジオに似ている。足を踏み入れた途端、あまりの温かさにとろけそうになるところが特に。
わたしのニューヨークかぶれには理由がある。これで一度も行ったことがないのに憧れているという設定のドラマの主人公とは違って、2回ほど住んだことがある。
わたしの人生にとってなくてはならない場所だ。同時に少し、切なく心が痛くなる響きがある。
「Good Morning Saki!」
「おはよ、アレックス。ごめーん、クラス始まってるでしょ?」
アレックスはゆっくりわたしの方に近づき、本当に包み込むようにハグをしてくれた。
いつもの挨拶のハグとは違う、気持ちのこもったものだということは理解できて、その理解が深まるほどに、わたしの頭はこわばり、身体は緩む。
「ちょっと!アレックス」
それに気付かないように、全身に力をいれる。そして、アレックスに軽く蹴りをいれて、友達を演出する。
「Good Morning. How are you?」
ニューヨークのヨガスタジオで一番好きだったのは、フロントで、何度も交わされる「How are you?」のかけ声だ。おはようございます!だけより、調子を伺うこのフレーズが好きなのだ。
もっとも、会社では勇気がないけれど、このヨガスタジオでは、その文化の香りを感じられるから、わたしもそうしていた。
「I’m very happy to be with you.」
「聞きとれなかった、なんて?」
「All right. 中に入ろう」
アレックスが、わたしを少し特別に思っていてくれること。察していたけれど、分からないふりをした。
だって、ここはもう、わたしにとっても、大切な居場所だから。アレックスとの関係を、友人であり、ヨガの先生と生徒という以上の、壊れやすい関係に発展させたくない。
いまはまだ、大切な場所も大切なひとも失う覚悟はできてないからだ。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「ダウンドック」
Week 1のおすすめは、ダウンドック(下を向いた犬のポーズ)。ダウンドックはヨガの代表的なポーズで、身体の後ろ側が伸び、めぐりが良くなるだけでなく、心が疲れている時、力を抜きたいとき、全身が固まっている時に最適。吐く息に注目しながら、一定時間このまま静止すると、心も落ち着いてきます。
「ダウンドック」ポーズの流れ
- アップ・ドッグの姿勢から、足の指を立てる。
- 息を吐きながら「く」の字をつくるようなイメージで両手・両足を伸ばし、お尻を高く持ち上げる。
- 両手の平全体・両足の指の付け根に均等に体重を落とすようにする。
- 首・肩の力を抜き、背中・腰を気持ちよく伸ばす。
- 太ももの内側を意識し、後ろへ押すようなイメージで内転させる。
- ここで5呼吸キープ。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。