(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。)
Vol.4 Week 1 「再会と新しい出会い」 (4)好きの種類
「今日は紗希と二人でヨガをしたくて」
「みんなには?なんて言ったの?」
遮るように、みんなを心配してみせると、
「大丈夫さ、みんな分かってる」
なんだかその意味深な言い方が気にかかり、面倒なことは避けたい私は、直球でけん制した。
「ここはパブリックな場所だよ、プライベートを持ち込むのはやーめ、やーめ」
そう言い張ると、アレックスは、大声で笑っている。
「プライベートで幸せじゃないひとが、他の誰を幸せにできる?プライベートの幸せこそ、世の中で一番大切にしなくてはいけないことだよ」
始まってしまった、アレックス節。アレックスの自己愛-博愛主義には共感する。でもわたしは、みんなで仲良くしたいよ。
頭の中のあれこれを、吐き出しきりたくて、ダウンドックのポーズの間、吐く息を強めていた。今日は、このままずっとポーズをとっていたい気持ちだ。
「紗希、そろそろ前屈に入って」
アレックスの声で、足を歩かせ、前屈の姿勢をとる。
そうしてゆっくり息を吸い、両手を天井の方へ持ち上げながら身体を起こし、胸の前で合掌すると、その目線の先に向かい合うアレックスが強い視線をこちらに向けてくる。
ダメだ。負ける。その視線から離せなくなって、この流れに負けたら、最後に辛い想いをするのはわたしの方だ。だからわざとらしく、まばたきをして視線を外した。
「紗希」
「アレックス、ありがとう。もう会社いくわ」
「紗希、きっと僕と君はうまくいく」
アレックスのことは好き。でもこれは、わたしに限ったことではない。彼のヨガのクラスを受けていれば、みんながそうなってしまう。
静けさが欲しいときには、そっとポーズを優しくアジャストしてくれるし、力が欲しいときには、自分を愛おしく思える言葉のシャワーを浴びせてくれる。そうしてアレックスのことに恋してしまう女性は多い。
一番古い生徒であるわたしが、新しく入ってくる女性がみんなアレックスの虜になることに最初はなんだか嫉妬めいたものを感じていたけれど、最近はもう、呆れるくらい。この3カ月だけで、数回そんなことがあった。
わたしもじっと、アレックスを見つめた。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「ダウンドック」
Week 1のおすすめは、ダウンドック(下を向いた犬のポーズ)。ダウンドックはヨガの代表的なポーズで、身体の後ろ側が伸び、めぐりが良くなるだけでなく、心が疲れている時、力を抜きたいとき、全身が固まっている時に最適。吐く息に注目しながら、一定時間このまま静止すると、心も落ち着いてきます。
「ダウンドック」ポーズの流れ
- アップ・ドッグの姿勢から、足の指を立てる。
- 息を吐きながら「く」の字をつくるようなイメージで両手・両足を伸ばし、お尻を高く持ち上げる。
- 両手の平全体・両足の指の付け根に均等に体重を落とすようにする。
- 首・肩の力を抜き、背中・腰を気持ちよく伸ばす。
- 太ももの内側を意識し、後ろへ押すようなイメージで内転させる。
- ここで5呼吸キープ。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。